【泉房穂×菅孝行 徹底討議】政治によって「世界全体の作者」になる
漁師町の共同性で培われた信頼関係
泉真面目に、明治維新ぐらいのことはしたいかなという感じがしているんです。別に大したことないですよ、明治維新なんて。思いつきでやっただけの話でしょう。 菅暴力を使った割に、大したことはやってない。国民皆兵の兵役義務なんていう悲惨なものも作ったし、家族制度なんか武家の制度を国民に強制したり、ろくでもないこともいっぱいあります。もちろん、飛躍的な近代化のために必要なプロセスだった面もありますが、偉大な歴史的大変革とはいえない。ただ、ろくでもないやつもいっぱいいたけれど、自分に見えている限りの世界全体を相手にする気概を、「志士」たちに対しては感じますよね。 泉要は本気度かな。真面目に「明治維新ぐらいできる」と思いこんでしまっているから、そんなに大変だと思わないんですよ。「それをみんなで考えましょう」と思ってるから、私にはリアリティがある。遊びじゃなくて、ホンマにやろうとしてるから。そこが伝わるんちゃうかな。 菅それが伝われば、そこに信頼関係ができる。 泉そうですね。小さな明石といえども、一定程度やってきた部分があるから。みんなが「できない」と思ったことを、小さいながらやってきたことを踏まえて言ってるから、そこは意味があるかなと自分では思ってます。 菅明石でのあなたの経験は、広い意味での世直し派の共通財産ですよ。アントニオ・グラムシというイタリアの革命思想家が、先進国革命では「機動戦」、つまり暴力を伴うことが想定される権力奪取の前に、「陣地戦」で勝てないと革命は成功しないと言ってるんですが、その意味するところは、いきなり権力を取ろうなどと考えるな、橋頭保を作るという意味でも、闘う者の思想的な訓練のためにも、色々な意味で究極の闘いに先立ってそれを支える糧となる実践が必要だ、という意味だろうと思います。私はあなたが明石でやったことは、より大きな変革の展望を開く「陣地戦」なんだと勝手に考えてるんですよ。 変革にもいろいろな形がありますから、こういったからと言ってあなたを「過激派」扱いするという意味ではありません。ただ、大切なことが成し遂げられると、それを成し遂げた者のリーダーシップに対する人々の深い信認につながり、その信認がより大きな変革の礎になる、そういう性格の貴重な実践にあなたが成功した、ということです。 近代を経験したインテリは「知的に認識して正しいことをやろう」というところから入る。だけど、「世直し」は、人と人の間に信頼関係を作れるかどうかが先で、中身はある意味で後の話になる。というか信頼関係の中でこそ、中身がはっきりしてくる。 泉信頼関係という意味では、漁師町出身ということも大きかったかな。漁師町ではみんなが助け合って、刑務所帰りも一緒にやるし、障害がある者も一緒に網を引いてるし、貧しい中でみんな助け合ってる中で育ってきた。親父が取ってきた魚を私がバケツに入れて、近所の人に持っていって野菜と交換して、それが晩ごはんのおかずだったから。まさに近代の前のような、牧歌的な子ども時代の共同体の体験がある。そこがベースにあるので、信頼関係が強いんでしょうね。