約80坪の敷地内に自宅と設計事務所を設計。庭を挟んで全然違う雰囲気の空間が広がる建築家の自邸
約80坪の敷地に自宅と事務所を配置し、プライバシーを確保しながらも自然光が降り注ぐ開放感あふれる空間にしたかったという建築家の柳澤安徳さん。それを叶えるために選択したのは、同じ敷地に混構造による2つの棟をつくるという実験的かつユニークなプランでした。 【写真集】中庭を挟んだ2つの異なる空間が広がる、建築家・柳澤安徳さんの自邸
住空間と事務所を共存させる難しさ
一級建築士事務所として設計から 施工、保守点検などトータルで住まいづくりの提案を行っている柳澤安徳さん。数多くのプロジェクトを手掛けていますが、自宅兼事務所である「YSACT」の設計が決定するまでには、紆余曲折があったと語ります。 「異なる性質を持つ2つの空間を成立させるには、必然的に棟を分けることが考えられました。棟の間に中庭を挟むことでつながりはもたせつつも、空間にいる人の気配が感じられるようにしたかった。しかし住空間には大開口と吹き抜けを、事務所には車庫や書庫など収納空間を、というように細部の具体的な要素を考えていくと、2つの棟を同じ構造にするには課題が多かったのです」
2つの棟を異なる構造にする
そこで、事務所棟は壁式鉄筋コンクリート造、 居住棟は重量鉄骨造を採用。工期は長くなりましたが、おのおので理想の空間を叶えることができました。 「事務所棟はモノトーンのインテリアなので、居住棟にはあえてホワイトカラーのインテリアは使用していません。そして居住棟の開口部にはブラインドなどがないため、事務所棟からは中庭を介して内部までよく見えます。ですので、弊社に設計のご相談に 来られたゲストの方には、事務所棟も居住棟も併せてご案内することが 多いですね」と、柳澤さんは語ります。
LDKの壁には空気の浄化作用がある左官材
設計や構造だけでなく、ディテールなどにも建築家ならではの試みが具現化されているのも大きな特徴。 「そもそも弊社は鉄骨業を生業として創業しました。この家の階段などは自社で制作したものに、自動車メーカーの特殊塗料を採用するなどオリジナリティを追求しています。また、居住棟の1,2階の壁には、空気の浄化作用がある音羽晶石の左官材を使いました。広い面積にこの左官材を施しているので、室内で犬を飼っているとは思えないほど臭いが少ないと評判ですね」と、柳澤さん。 〈写真〉中庭から居住棟を望む。1階は全面に床暖房を設置しているので、冬でも快適に過ごすことができる。吊るされたボッチの照明は数個増やす予定だとか。
ショールームとしても機能
まさにショールームとしても機能している職住一体の家。季節を問わず、中庭でBBQパーティを催しゲストをおもてなしする機会も増えたそうで、人が集う家として新しい休日の過ごし方ももたらしています。 こうしたライフスタイルの変化に伴い、自邸が完成した後もアウトドアファニチャーを追加したり、リビングの照明を増やしたりなど、心地よい空間づくりを引き続き計画しているそう。実験的なプランニングによって完成した家は、さらなる変化を伴って、より豊かな暮らしを提案してくれています。