不動1位人気の猫種が抱える耐え難い痛みと「かわいい」で生み出される猫たちの悲しみ
「スコマンチ」が人気を集めているけれど……
「スコティッシュフォールドは、可愛らしい、ユニークな外見を優先する人間の都合で、一生、苦痛を味わい続ける品種を生み出してしまった、ともいえるのです。しかも、最近では、スコティッシュフォールドとマンチカンを掛け合わせた、“スコマンチ”というミックス猫も登場しています」(杉本さん) スコティッシュフォールドの場合、折れ耳同士の交配は遺伝性骨軟骨異形成を生んでしまうので、折れ耳同士の交配は禁忌とされ、雑交配が基本といわれている。しかし、雑交配がいいとされても、マンチカンは足が短く、他の猫に比べると関節などに負担がかかりやすい傾向もある。ともに、関節・骨格が弱いという特性を持っているのだ。 「関節や骨格に問題を抱えやすいもの同士を掛け合わせることに、ブリーディングしている人たちは、何の抵抗もないのでしょうか。犬も猫も、ミックスに対して見た目重視で、身体状況や健康面を無視した無法地帯のようになっているところがあるので、この問題も何かしら法的な規制が必要なのではないかと思っています」と杉本さんはいう。 実際、世界最大の猫の遺伝子登録機関であるTICA(国際猫協会)では、スコティッシュフォールドとマンチカンの掛け合わせは認めていない。ともに、誕生してからの歴史が短く、わかっているだけでも遺伝性骨軟骨異形成などの疾患があるにも関わらず、掛け合わせることによってどんな問題が起こるかわからないからだ。 「海外でそのような動きがある一方で、人気猫種はスコティッシュフォールドが1位、マンチカンが2位という日本の現状には、正直、複雑な気持ちになりますね。犬種や猫種の繁殖のモラルに関しては、環境省令による出産回数や年齢制限と並行して、業界団体全体で厳しい自主規制を行っていくべきだと思います」(杉本さん)
まずは問題を知って、考えることが必要
「私はブルドッグと暮らしているのですが、筋肉質の体型なのに呼吸に関わる気管がとても細い。短頭種で、頭蓋骨の長さに比べて鼻の長さが極端に短い“鼻ぺチャ”の犬種なので、呼吸器系の疾患になりやすく、ちょっと運動しただけでも苦しそうで……。 猫にも鼻の低い短頭種がいる。スコティッシュフォールドやエキゾチックショートヘア、ヒマラヤンなどで、目から鼻へと涙が通る管が狭くなったり詰まったりすることで、涙が目から溢れる流涙症になったり、慢性的に涙が溢れることで、慢性的に目ヤニが出るようになってしまう子も多い。やはり人間が生み出した犬種や猫種には健康面に無理があるな、と感じることは少なくありません」と日本獣医生命科学大学特任教授で獣医師の田中亜紀さんは言う。 しかし、これは私たちメディアも反省しなくてはいけない。普通の犬や猫よりも、ちょっと情けない表情の犬や猫を、“ファニーフェイス”とか“ブサカワ”と言って、好意的に、バラエティー番組やドラマで取り上げてしまう。スコティッシュフォールドや無理な交配によるミックス犬、ミックス猫の問題について、報道されることもほとんどない。こういった現状では、「かわいい」「珍しい」と思って一緒に暮らしたいと思う人が出てくるのも当然なのかもしれない。 現状、こういった動物たちの異なる純血種の交配や遺伝素因を無視した交配に関しての規制はない。前編で記載した大型犬のアラスカンマラミュートと小型のポメラニアンのブリーディング以外にも、小型犬のペキニーズと大型犬のアフガンハウンドを掛け合わせたハーフ犬が流通していることが愛犬家の間で批判を集めたこともあった。見た目だけで決める交配は危険だということを、今より多くの人に知ってもらうためにも、「少しずつではあっても声をあげ続けていくことが重要」と杉本さんはいう。 また、スコティッシュフォールドを始め、犬や猫の遺伝的特性に関する記事を掲載すると「うちの子は元気なのに」「うちの子は長生きだった」「スコを侮辱するようなことを言わないで」といった声をいただくことがある。しかし、犬や猫の遺伝的特性に関する情報は、決して動物たちを冒涜するためにお伝えしているわけではないことをぜひともご理解いただければと思う。その個体は元気であっても、実際に体に負担がかかり、無理をしている個体が存在していることも事実だ。愛すればこそ、そういった動物を新たに作り出さないために何が必要なのか、議論していくことが必要だと思うのだ。
牧野 容子(エディター・ライター)