地域任せに限界、川口に集住「クルドの子」の教育 白か黒かでなく学校現場の実情に合った方針を
「ここで大きくなれ」と連れてこられた子どもたち
川口市と蕨市では、小室氏のようなボランティアによる日本語教室があちこちで開催されている。クルド人以外にも外国人が多く暮らす地域であるため、学校には日本語指導教員などが配置されているが、十分な状態ではない。小室氏のもとにも「子どもの在留資格を確認してもいいのか」「必要書類が提出されない」「給食はどうなるのか」「修学旅行やインターンは行かせられるか」など、教員からさまざまな相談が寄せられる。 「学校の先生方は、日々細かなことで困っています。数千人のクルド人がここに存在することは事実ですが、先日も『移民政策はとらない』という国会答弁がありましたね。それは実際に起きていることに予算を割く気がなく、学校の状況を変える気もないということ。実情を見て見ぬふりするものだと思います」 難民認定をめぐる状況や入管法の改正についても、複雑な思いを語った。 「残念ながら、難民申請するクルド人の中には、その詳細をわかっていない人たちもいます。日本で暮らすための普通の手続きのように思っていて、ある日突然、それが定住できるものではないと知って驚くのです」 これもまた、日本人には共感しがたい大きな「違い」だ。だがこの方法がクルド人コミュニティーで定着していることは、日本のグレーな状況がそれだけ長く続いてきたことを示している。ここからどうやって正しい情報を広めていくか、これも今後の課題の1つかもしれない。小室氏は続ける。 「一方で、トルコ在住時にジャーナリストだった人や政府に反対した人など、明確に難民性のある人も間違いなくいます。しかしすでに2回難民申請をしている人を狙って、見せしめ的な送還が行われる恐れがある。私の仲良しの家族も狙われるかもしれません。新たな入管法によってどんな動きがあるのかは、とても気になるところです」 美しいだけの共生も、盲目的な排斥も、わかりやすく白か黒かに分けられるものは、グレーな実情に即していない。小室氏は「この状況に答えがあるとは思っていません。ただここにいるのは、『ここで大きくなれ』とまったく違う国に連れてこられてしまった子どもたちです。彼らが少しでも勉強を好きになれるよう、意欲のある子どもが学び続けられるよう、私にできることをするだけです」と淡々と語った。 (文:鈴木絢子、写真:東洋経済education×ICT編集部)
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