地域任せに限界、川口に集住「クルドの子」の教育 白か黒かでなく学校現場の実情に合った方針を
日本語力の壁、不安定な在留資格…それでも学びたい子ども
日本に長くいて会話は流暢でも、日本語が学習言語にならない外国ルーツの子どもは多い。まして中学生になってからの来日では、本来はかなり集中的な学習が必要だ。 「日本語力に大きな問題があっても、定員割れを起こしている公立高校ならたいてい受け入れてくれる。でも結局勉強についていけず、単位制の学校に移ったり、中退したりする子も一定数います」 だが学校に溶け込む子どもたちもいる。ある生徒は、修学旅行のお土産として、小室氏に超定番のご当地スイーツをくれた。自分の家族にも同じものを買ったそうだ。同氏は「きっと友達と一緒に選んだのでしょう」とほほ笑むが、こんなことからも、彼らのとても「普通」な学校生活が見えてくる。また、困難な中でも勉強に打ち込む生徒もおり、今年も大学受験を望む高校生がいる。 クルド人の子どもが進学するには、受験期を過ぎるまで難民申請が却下されることなく、特定活動ビザなどが維持されている必要がある。こうした在留資格がなくなるといわゆる「仮放免」となり、たとえ合格しても留学ビザの申請もできなくなる。2024年6月には、「3度目以降の申請では『認定すべき相当の理由』を示さなければ送還する」とした改正出入国管理法が施行された。 日本生まれの子どもがいる家庭に在留特別許可を出すなど、近年は国の対応も変わってきている。だが小室氏の周囲には、生後半年から1歳で来日したため、この施策の対象外になった子どもも複数いる。 「在留資格のことを心配しながら勉強し、受け入れてくれる学校を探さなければならないことは、大きな負担だと思います。それでも学びたいと思っている子どもには、なるべくチャンスを示したいのです」 クルド人の学習支援を続ける小室氏だが、自身も川口市民として、近隣住民の葛藤も理解している。 「知人からもクルド人とのトラブルについて聞きますし、私もつい先日、クルド人が運転する車にひかれかけました。青信号の横断歩道を子どもが行き来して遊んでいて、車が曲がるに曲がれず困っているのを見たことも。そのときは子どもをトルコ語で怒鳴りつけましたよ」 他者との差は身近になるほど気がつくもので、その小さな積み重ねが日常の中で軋轢を生む。多様性やインクルーシブを考えるときには、まず互いの「違い」を認識したうえで、それを差別や同情に直結させない環境を作らなければ、多様性は絵に描いた餅になるだろう。 だが「違い」への対応は地域に任されており、いわば対症療法が続けられているのが現状だ。小室氏も「クルド人と日本人はあまりにも文化が違う。日本も窮屈すぎると思いますが、文化の差が大きすぎて、私もどうしたらいいかわかりません。ただ、表面的に理解しているふりをして『多文化共生』と簡単に言うのはやめてほしいですね」と苦笑いする。