取引先が営業に本当に求めているものとは…「安くていい条件」よりもっと大事な「仕事の」真理
酒店へ毎朝通う“習慣”を始める
すると店主から「少し困っているんだ。自販機の電源がよく落ちる。電気の使用量が一杯だと思うんだが、やっぱり電気工事がいるのか」との相談です。 ホッとしながら「そうですね」とふと見ると、日中なのにすべての自販機のライトが点灯しています。当時の自販機はいまのように自動で夜間照明が点灯しないものもあり、この店では夕方になると一台ずつ照明のスイッチを入れて、翌朝消灯しなければならなかったのです。家族経営のお店のために手が回らないこともあり、よくブレーカーが落ちて止まっていました。 「昼間、照明用の蛍光灯をすべて消灯すれば節電になりますが、毎日朝夕の対応は手が回らないですよね」と思わず解決策にもならないことを口にしてしまいます。「ウチも朝夕は忙しいからなぁ」と店主は半ば諦め口調です。 「では私が手伝います。夕方は難しいですが、平日の朝ならなんとかなると思います。電源のスイッチを切るだけですから」 私はついこう言ってしまいました。北沢酒店は私たちの営業所のすぐ近くです。毎日となると大変そうですが、もう後には引けません。 翌週から毎日、北沢酒店を経由してその日のルートに出発することになりました。最初のうちは少しばかり億劫でしたが、慣れてくるとそれほどでもなくなります。自販機の汚れも拭き取れるので一石二鳥です。 そして数ヵ月たった頃です。
機械を使えば手間は省けるが…
「毎朝、北沢酒店に行っているようだが何かあるのか」 恒石マネジャーが話しかけてきました。私が事情を伝えると「そうか」との一言でさっさと自分の席に戻ってしまいました。 数日後、その日の外回りの仕事を終えて営業所に戻ると、恒石マネジャーが私を呼びます。 「なんでしょう」 「いいからちょっと来い」 恒石マネジャーのデスクになにやら電気部品の入った小さな箱があります。 「これはディライトスイッチといってな、明るさに反応して電源のオン・オフをやってくれるものだ。これを北沢酒店の自販機に取り付ければ、毎朝消灯に行く必要はなくなるぞ。おまけに夕方になったら自動で点灯もしてくれるから先方にとっては願ったり、叶ったり。これを持って行け」 まさしく朗報です。「ありがとうございます」と私は深々と頭を下げました。 次の日の朝、私は意気揚々と北沢酒店に向かい、ディライトスイッチを紹介しました。 店主と奥さんはさぞ喜んでくれると思ったのですが、私が期待したほどの反応ではありません。