なぜ「たかが石ひとつ」が地球に落ちただけで恐竜が絶滅したのか…庭先に落ちた岩と巨大隕石の差は何?
巨大隕石が地面に衝突すると……
地面に衝突したらこの膨大なエネルギーはどうなるのか? エネルギー保存則があるので、隕石の持っているエネルギーがなくなることはない。ほとんどの場合、それは熱になる。前述したように一辺12mの隕石が落ちてきたら原爆1個分の熱が発生する。 ユカタン半島に落下した巨大隕石は直径10kmから15kmだったから、これはもう大爆発になるしかないではないか! いきなり計算するのは大変なので、まず一辺1kmの隕石の熱量から考えてみる。計算すると、広島型原爆約58万個分なので(※5)、だいたい9300メガトンになる(※6)。これは地球上にある全核兵器の総威力、7000メガトンをゆうに超えてしまう。考えるだに恐ろしい。 さらに恐竜を絶滅させたと言われる、直径がこの10倍だった隕石は重さで言えば10倍の3乗、つまり、1000倍の威力である。930万メガトンという、もうなんだかわからない規模の爆発力で、隕石が落ちた衝撃とその結果、引き起こされた気候変動で恐竜が絶滅してしまうのも致し方ないのではないか。 この隕石爆弾の威力は、第二宇宙速度によって決まっているので、当然、惑星ごとに異なってくる。火星の第二宇宙速度は約5km/秒で地球の半分なのでエネルギーは4分の1となり同じ重さの隕石が落ちた場合には破壊力も4分の1に減じる。これが月になるとさらに半分の約2.5km/秒なので地球の場合の16分の1の威力になる。一般に星が小さくて表面重力が弱くなればなるほど隕石爆弾の威力は小さくなっていく。 地球みたいに、たまたま生命体が誕生した惑星に限って、数十km程度というけっしてありえないとは言えないサイズの隕石爆弾が、その惑星の生命を一掃するくらいの威力を持って落ちてくるのは僕にはすごい偶然のように思える。 ひょっとしたら宇宙に我々以外、知的生命体がいない(ように見える)理由は、生命体が誕生できる程度のちょうどいい大きさの惑星は、都合悪く隕石爆弾の威力がちょうど生命体を滅ぼすくらいのサイズなので知的生命体が発生する前に進化が振り出しに戻ってしまうから、みたいな、とてもつまらない理由なのかもしれない。 * (※5) 1kmは1000mなので、(1000/12)の3乗で広島型原爆約58万個になる。これは1cm3 =1gの計算で、岩の密度が数g/cm3 だったら、もうちょっと小さくなる。仮に3gあったとすると、体積は3分の1になる。それでも、1辺の長さは3分の2になるだけなので(3分の2の3乗はほぼ3分の1になる)、12mが8mになる程度で大差ない。 (※6) 原爆1個は16キロトンなので、58万×16キロトン=930万キロトン=9300メガトン(1メガトンは1000キロトンなので)
田口 善弘(中央大学理工学部教授)