なぜ「たかが石ひとつ」が地球に落ちただけで恐竜が絶滅したのか…庭先に落ちた岩と巨大隕石の差は何?
恐竜はなぜ絶滅したのか?
「物理法則の王様」ともいえるエネルギー保存則がわかると、これまでわからなかった景色が見えてくる。恐竜の絶滅を招いたとされる巨大隕石を例に考えてみよう。 恐竜は、いまから約2億3000万年前からおよそ1億6400万年にわたって繁栄したが、6600万年前ごろに突如として絶滅した。その理由は諸説があるが、現在もっとも有力とされているのが「巨大隕石」原因説だ。 6600万年ほど前、現在のメキシコのユカタン半島に巨大隕石が落下、衝突によって生じた大量の塵によって、太陽光線がさえぎられて、地球上が寒冷化した。これにより、生態系が激変、草食恐竜は食べていた植物がなくなったことで絶滅し、それを主食としていた肉食恐竜も絶滅したというストーリーだ。きわめて短期間で起きた環境変化だったために、生物進化などで対応できず、この時期に多くの生物種が絶滅したとされる。 それにしても、巨大隕石とはいっても、たかがひとつ石が地球に落ちただけで、1億6400万年間も繁栄してきた恐竜が絶滅するというのは、今ひとつ腑に落ちない。恐竜の全盛期に地球に落下した巨大隕石は、直径10kmから15kmだったと言われている。確かに巨大ではあるが、地球が割れてしまったわけでもなく、大きな穴が開いただけだ。 庭先に、裏山から巨大な岩が落下しても、直接当たらなければ誰もけがはしない。なぜ巨大隕石だと、全世界に被害を及ぼすような事態を招くのだろう。庭先に落ちた岩と巨大隕石の差はなんだろうか。 それは「速度」である。地表に落ちてくる隕石には、空気抵抗を考えない場合、必ずこれ以上の速度でなくてはいけない、という最低の値があり、その値はなんと秒速(時速ではない! )11.2kmというとんでもない速さだ。これはマッハに換算すると33になる。この速度は、実は「ロケットが地上から飛び立って地球を完全に離脱するのに必要な速度(第二宇宙速度)」に等しい。 一方、隕石が地球に衝突するときには、膨大な位置エネルギーが放出される。水力発電が、水の落ちる力(位置エネルギー)を利用して、水車を回転させ、その回転(運動エネルギー)を発電機に伝え、電気エネルギーを作り出すことを思い出してほしい。 さて、この秒速11.2km(マッハ33)という速度はどれくらいのエネルギーを隕石に与えるだろうか。運動エネルギーは、 の式で求められる。簡単に計算するために、隕石は1kgと仮定しよう。前述の公式を使うと、運動エネルギー(J)=1/2×1kg×(11.2×1000m/秒)2になるので、その隕石が持っているエネルギーは6272万ジュールに達する。 ジュール(J)という単位はわかりにくいかもしれない。爆発物の場合、TNTという高性能爆薬の質量に換算することが多い。TNT1kgの爆発力はエネルギーに換算すると(たった)418万ジュールだと言われている。なんとわずか1kgの(? )隕石は同じ重さのTNTの10倍以上の爆発力を持っているのだ! 広島型の原爆のエネルギーはTNT換算で16キロトン程度だと言われている。隕石はTNTの10分の1で同じ爆発力を持つわけだから、1.6キロトンで原爆1個分の威力がある。1.6キロトンの岩ってどれくらいの大きさだろう? 岩の密度は1cm3 当たり1g程度(※1)である。なので1.6キロトン=1600トン=160万kg=16億g(※2)にするには、だいたい16億cm3 =1600m3 でいい(※3)。これは仮に立方体だとすると、一辺約12mにすぎない(※4)。そんな大きさの隕石で原爆1個分のエネルギーを持っているのだから、驚くべきことである。 * (※1) 厳密には、岩の種類によって密度には幅があり、数g程度のこともある (※2) 1トン=1000kg、1kg=1000g (※3) 1m3 =100万cm3 (※4) 立方体の体積は一辺の3乗である。一辺12mの立方体の体積は、12×12×12=1728m3 である