「中宮の部屋から響き渡る女性の叫び声」。紫式部たちが夜中に目撃した“まさかの光景”
紫式部は、局にいた内匠の蔵人(中宮に仕える女蔵人)に「内匠の君、さぁ、さぁ」と声をかけます。内匠の蔵人を先頭に立てて、事件の現場に向かおうとしたのです。 「中宮様がお部屋にいらっしゃいます。まず、御前に参上し、ご様子を確認いたしましょう」ということにして、まだぐっすり寝ている弁の内侍を乱暴に叩き起こしました。 中宮の部屋に向かう3人の女性。おそらく、先頭は内匠の蔵人、次が紫式部、最後尾が弁の内侍だったのでしょうか(もしかしたら、怖がってしまった紫式部が最後尾だったかもしれませんが)。
紫式部たちは、何が待ち構えているのかと考えると不安になり、ブルブル震えながら現場に向かいます。 ■紫式部が見たまさかの光景 そうして中宮の部屋のほうに向かうと、裸の女性が2人、うずくまっているのを発見しました。靭負と小兵部という女性でした。 実は盗賊が彼女たちの衣服を奪っていったのです。いったいなぜそのようなことが起きてしまったのでしょうか。 実は宮中の台所係の男性たちも、中宮の警備の者も、追儺が終わるとすぐに自宅に帰ってしまいました。つまり誰も守ってくれる者がいない状態だったのです。
紫式部をはじめとする女房たちは手を叩いたり、声を上げで、人を呼ぼうとしますが、誰もやってきません。 紫式部は業を煮やし、配膳室の刀自(下級の女官)を呼び出して、次のように命じました。 「殿上の間に、兵部の丞という蔵人がおります。その人を呼んで。早く呼んで」と。 この兵部の丞というのは、紫式部の弟・藤原惟規のことです。紫式部は刀自に命じたことを「恥を忘れて……」と日記に記していますが、この当時階級の離れた身分の低い刀自に直接口を聞くのは、はしたないとの認識があったからです。
刀自は一生懸命、惟規を探したようですが、見当たりません。どうやら、先に退出したようです。「つらきこと限りなし」(恨めしいことこの上ない)。紫式部はこの時の気持ちをそう日記に記しています。(惟規、何でいないんだよ、肝心なときに。役立たず……)といった気持ちだったのでしょうか。 そうこうするうちに、やっと、式部の丞の藤原資業が駆けつけてきます。そして、あちこちの灯火をたった1人で点けて回りました。 明かりがつくと、女房たちのなかには、呆然として、ただただ、顔を見合わせている者もいます。