56年前の「9・17」。江夏豊は王貞治からシーズン最多となる354個目の三振を奪った

9月17日は中秋の名月だった。普段は夜空を見上げる機会はほとんどないが、改めて眺めると、きれいだなあと感じた。そして、大きな、大きな白星にも見えた。そう感じるのは、ペナントレースが佳境を迎えている証しだろう。 【写真】談笑しながら…相合い傘で移動するゲラと森下 56年前のこの日は、大記録が生まれた日だった。1968年9月17日。甲子園で行われた阪神―巨人で、江夏豊がシーズン最多奪三振となる354個目を記録した。あまたある江夏伝説の1つで、虎党ならご存じだろうが、令和の時代、そしてこれから先も語り継がれるべき偉業なので、改めて振り返る。 入団2年目の左腕は、開幕から白星とともに三振を積み重ねた。稲尾和久（西鉄）が持っていたNPB記録の353奪三振にあと8と迫って迎えた伝統の一戦。江夏は王貞治から三振を奪って新記録を樹立しようと狙っていた。 そして、思惑通りにコトは進む。四回に王からこの日2つ目、この試合では8つ目の三振を奪うと、意気揚々とベンチに引き揚げた。ところが、ここで江夏の計算違いが判明する。あと8個で新記録と思い込んでいたが、それではタイ止まりだった。再び王からとなれば、その前の8人を何とかやりくりしないといけない。 普通なら諦める。だが、普通じゃないから伝説になるのだ。江夏はその後の8人を打たせて取り、七回に迎えた王の第3打席で三度、三振を奪って新記録を樹立。その後、401まで伸ばし、2024年も塗り替えられていないNPB記録となっている。 さらにこの日の江夏伝説には続きがある。0―0で迎えた延長十二回に高橋一三から中前にサヨナラ打を放ったのだ。投げては12回3安打12奪三振で完封、打っては決勝打の離れ業。そして2位のチームは首位巨人に1ゲーム差に詰め寄った。 江夏は中1日で19日の巨人戦（甲子園）にも先発して4安打、10奪三振で完封勝利。ついに巨人とゲーム差なしとした。その後のことはあえて触れない。だが「9・17」の江夏の姿が猛虎を勢いづかせ、多くの野球ファンが熱狂したことは間違いない。 9月に入って何とか食らいつき、連覇への望みをつなぐ岡田虎。逆転優勝のためには、あの日の江夏とまではいかないが、江夏級のインパクトが必要だ。その演者となり得るのは誰なのか―。虎番の中屋友那は即答した。