「10年後、日本の野球界は行きづまる」一人の野球指導者の危機感が、アマチュア球界を変える新リーグを生んだ~野球指導者・阪長友仁のビジョン前編~【『新しい高校野球のかたち』を考えるvol.6】
「なんでこんなことができないんだ」と叱る指導者に言いたい。「だからあなたが必要なんです」
阪長は、日本の指導者をドミニカの野球現場に連れていった際に、ドミニカの指導者からよくこんなことを問いかけられるという。 「あなたは、指導者のために、チームのために選手が必要だと思いますか?もしくは、成長したいと願う選手がいるから指導者が必要だと思いますか?」 阪長は言う。 「当たり前ですけど、答えは後者なんですよね。極端な話、『勝つためには戦力が必要なんだ。だからこういう選手が必要なんだ』という考え方は、少なくともアマチュア野球では間違っています。常に選手が主体なんです。選手自身が、上手くなりたいとかプロ野球選手になりたいと思っています」 「また、当たり前のことですけど、選手は経験値が少なくて未熟な存在です。それはプロ野球選手であってもそうであって、アマチュアであればなおさら。そこに対してアプローチができる指導者が必要なんです。彼らの夢を叶えるために。それなのに、世の中には『なんでこんなことができないんだ』と選手に言う指導者がいます。しかしそれは間違っています。『だからあなたが必要なんですよ』という話なんです」 続いて阪長は、日本とドミニカの目標設定の違いを指摘する。 「ドミニカの16歳から18歳の選手において、『メジャーリーグで活躍する』というのが一つの目標です。もちろん、高校生年代のドミニカの選手も、目の前の試合は勝利を目指してプレーしますが、それは勝利と言う結果が重要だからではなく、勝利を目指す中で成長できることがたくさんあるからです。勝利という結果のためではなく、勝利を目指すという手段の中に成長できる要素がたくさんあるからです。つまり、目標を今に置いていないんです。日本の場合はどうしても今、勝つという結果を大事にしている。16歳から18歳の間に、勝利という目標をつかむことが大きくなっています」 「でも、ドミニカの選手たちは25歳になった時にメジャーリーグにいたいんですよね。そのために『今どういうことをするべきか』が明確にあって、指導者の評価もそこなんです。指導者自身も、今日の勝利のために選手をつぶしたら評価が下がります。今日負けたとしても、彼らがいろんな経験を積んだ先に将来、活躍できる一日があれば、そっちのほうがよっぽど価値があるという考え方ですね。ただし、これは例え負けてしまっても次の機会があるリーグ戦というフォーマットがあるからこそ、やりやすいアプローチなのだと思います」 後編では阪長の日本の野球への提言を紹介していく。 <後編へ続く> (文=安田未由)
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