市街地のバス停が消える…「買い物に便利」と購入したマイホーム、路線再編で「最寄り」は遠くに
地域住民の移動を支える公共交通機関が細ってきている。人口減や過疎化に加えて、新型コロナウイルス下での行動制限に伴う利用減も追い打ちをかけた。鹿児島県内も例外ではない。自由に動ける態勢づくりへどうすればいいか。地域公共交通の在り方を考える。(連載かごしま地域交通 第1部「ゆらぐ足元」②より) 【関連】やはり運転手不足は深刻 新規求人数、14カ月ぶり増に転じる 運輸・郵便業は14.4%増える
「健康な人なら歩ける距離でしょうけど、持病がある身には難しい」。鹿児島市常盤2丁目の80代女性はため息をつく。最寄りのバス停が遠くなったからだ。 近くの常盤バス停から二つ先の西田本通バス停まで乗り、買い物に行くのが常だった。今年4月、南国交通は路線再編に伴い常盤バス停を廃止。付近の住民にとって最も近いバス停は約470メートル東寄りの西田小学校前になった。 数十年前に自宅を構える際、バス停の近さや便数は決め手の一つになった。「便利な所でいいね、と友人にうらやましがられた。近頃は便も減り、昔とは変わった」。現在は今春から使えるようになった乗り合いタクシーで行く。 住民によると、新型コロナウイルス流行前までは昼間でもバスは1時間に1、2便あった。最近2時間前後便がない空白の時間帯も出てきた。 常盤は、市営バス2番線を引き継いだ南国交通の清水・常盤線の起終点だった。付近は道幅が狭く、車体転回のため警備員が誘導していた。住民が見慣れた風景もバス停とともに姿を消した。
□ ■ □ 常盤バス停廃止に伴い、市は公共交通不便地対策事業として乗り合いタクシーを運行する。2018年に始めていた常盤地域での対象区域を広げたのだ。自宅付近から気軽に乗れる。 常盤1、2丁目の住民が加入する常盤町町内会は23年秋にバス停廃止の情報が入ってすぐ、乗り合いタクシーの対象区域拡大や運行日を増やすよう市に要望した。ただ、バス停の存続は盛り込まなかった。廃止撤回は難しいとの判断があった。 半年ほど前の昨年4月に実施された減便を巡る出来事が大きく影響した。町内会は3月に地元の高齢者団体とともに南国交通に再考を要請した。やり取りを通じ、利用者減少や乗務員不足に加え、常盤では警備員の人件費負担が大きいことを理解したという。 要望した当時の会長、横手正治さん(82)は「廃止が避けられないなら、現実的に住民の利益になるのは何か。乗り合いタクシーを使えるようにすることだと切り替えた」と説明する。