大谷翔平はMLB史に残る選手でしかもまだ先がある 「あと9回!」の意味と米メディアの反応
ロサンゼルス・ドジャースがニューヨーク・ヤンキースを4勝1敗で破り、8度目のワールシリーズ制覇を果たした。移籍1年目で目標を達成した大谷翔平、主要な先発投手を欠きながら頂点に辿り着いた選手層、そして主要選手を継続して維持できる契約マネジメント。有言実行を果たした大谷のコメントからその思いを読み解くとともに、来季以降のドジャースについて展望する。 大谷翔平の全試合を現地観戦する「ミニタニ」2023 【MLB史に残る選手】 「あと9回、あと9回!」──。 歓喜に酔いしれる大谷翔平が、シャンパンの泡と共に放ったこのひと言が、米国メディアの想像力をかき立てている。悲願の世界一を手にしたロサンゼルス・ドジャースのロッカールームでは、祝福ムードが最高潮に達していた。記者に囲まれていたアンドリュー・フリードマン編成本部長に大谷がそっと近づく。次の瞬間、フリードマンの顔にはシャンパンのシャワーが降りかかっていた。 大谷は10年契約の1年目に世界一になったが、"残り9年も"というわけだ。フリードマン編成本部長はこのあと記者たちに、「彼は1年目にチャンピオンシップを勝ち取った。『これは簡単だ。あと9回繰り返すだけさ』と言っているようなもの」と説明している。 大谷が"This is easy(これは簡単だ)"というニュアンスで言ったとは、信じがたい。スポーツ専門メディア『ジ・アスレチック』のラスティン・ドッド記者は、意外なビッグマウスに「もちろん、大谷が冗談を言っていたと考えるのが妥当。シャンパンが語らせたのかもしれない。しかし、彼がメジャーリーグでこれまで成し遂げてきたことを考えると、それはまたひとつの目標なのかもしれない」と報じている。『ロサンゼルス・タイムズ』紙のディラン・ヘルナンデス記者も「He probably wasn't kidding(冗談ではなかったのかも)」と書いている。 公式戦で最もよい成績を収めればワールドシリーズに出場できた時代(例えば1949年から53年のヤンキースによる5連覇)は過去のものとなり、現在のフォーマットでは、30球団中12チームがポストシーズンに進出し、世界一になるためには少なくとも3つの短期決戦を勝ち抜かなくてはならない。これは、決して簡単な道のりではない。実力だけでなく運も求められてくる。 しかし筆者は、大谷が大風呂敷を広げたわけではなく、本気なのだと思う。「大谷が大谷たるゆえん」は、多くの人が不可能と思う目標をあえて掲げ、リスクを恐れずに全力で挑む姿勢にある。その挑戦心によって、誰もが無理だと思った二刀流で2度のMVPを獲得し、指名打者に専念した今季は史上初の50本塁打・50盗塁を達成するなど、毎年、世界中の野球ファンを驚かせ続けている。そして彼のキャリアは、まだ道半ばにすぎない。 ちなみに、ワールドチャンピオンの称号を手に入れて迎える今オフには、3度目の獲得が濃厚なMVP発表が控えている。世界一と3度のシーズンMVPの栄誉を獲得した選手は、メジャーリーグ史上わずか9人しかいない。過去50年に限るとアルバート・プホルスとアレックス・ロドリゲスのふたりだけだ。その他の受賞者はスタン・ミュージアル、ヨギ・ベラ、ミッキー・マントル、マイク・シュミット、ロイ・キャンパネラ、ジミー・フォックスといった殿堂入りのレジェンドたちである。最終的には、150年にわたるプロ野球の歴史のなかで、ベーブ・ルースをはじめとする偉人たちと並び、野球界に大きな変革をもたらした人物としてその名を刻むことになるのではないだろうか。 フリードマン編成本部長はこの同じ囲み取材で、大谷のプレーヤーとしての履歴書は最終的にどのようなものになるのか、どこに行き着くのかと問われ、「彼が史上最高の選手だというのは議論としてまっとうなものだと思う。今回の優勝はその議論をさらに強化するものだし、これからもまだ先がある」と語っている。