対中投資が急減?:中国の外資企業に何が起きているのか
在中企業の二極化
昨年、在中国EU(欧州連合)商工会議所代表が「コロナ禍が始まった2020年以降、中国に新規に進出した欧州企業は1社もない」と発言して反響を呼んだ。18年から21年にかけてEUから行われた対中投資の90%は、ドイツの自動車関連企業を中心とする上位10社が占めたとする報道もあった(※4)。 これは欧州企業に限られた現象ではない。20年前はコストを低減するため、日米欧の中小企業が大挙中国に進出したが、今や中国のコスト上昇、地場企業の競争力向上により状況は一変した。多くの外資企業が中国では利益が出なくなり、既に撤退または撤退を検討中だと言われる。 日米欧ともに、年間売上高が1000億ドルを超えるようなグローバル大企業とそれ以外の企業の間で、中国への態度が二極化しつつあるのではないか(規模は小さくても特定分野で極めて強い競争力を持つ企業は例外だが)。 米国では、全米商工会議所が中国とのビジネス関係の維持発展を望むレポートを出すが、ここでも中核で活動するのは少数のグローバル大企業だ。逆に言えば、昨今の米国議会が激しい対中姿勢を取るようになった一因は、数の上では圧倒的多数の米国企業が中国に距離を置くようになったことだろう。 「対中投資80%減」のイメージとは裏腹に、在中国日系企業に対するアンケート調査で「今後も投資を増やす」という回答がかなり多い(※5)のは、今いる外資企業は勝ち残り組が多いためだとみて良いだろう。
「横綱」3業種
勝ち残りが多く、影響力もある「横綱」業種を3つ挙げるとすれば、自動車、半導体、金融だと思われる。自動車については、改めて説明するまでもない。昨年3000万台の車が売れたとされる中国は西側自動車メーカーにとっても、最も重要なマーケットだ。 また、日本はやや縁遠いが、中国は半導体でも世界の需要の3割を占める最大のマーケットだ。電子製品、家電、車にと膨大な数の半導体が製品に組み込まれて世界へ売られていく。 金融については少し説明が必要だ。中国は国内金融市場を外国金融機関にあまり開放してこなかったが、2018年頃から要望の強かった規制緩和を次々実行した。ちょうどトランプ前米大統領が対中貿易戦争を加速したころのことであり、中国の狙いはウォールストリートを味方につけることだったのだろう。 当時の中国は、債券市場では金利が高く、株式市場にはネット、デジタル、人工知能(AI)などハイテク関連の有望企業がたくさんある魅力的なマーケットだった。ウォールストリートは喜んで対中投資を拡大した。富裕層へのプライベートバンキングを展開したいという願いもあった。