対中投資が急減?:中国の外資企業に何が起きているのか
香港経由のUターン投資の減少
月岡氏が挙げる2つの原因以外にも、外国投資減少の原因はまだあると考えられる。 一つには中国内の民営企業が昨年第2四半期から経済先行きを悲観して投資を手控える傾向があることだ。この時期はゼロコロナ政策撤廃後に期待されたリベンジ消費回復が期待外れに終わる一方、不動産不況が深刻化して大手不動産企業の経営不安が広がったころだ。 国内の景気ムードが外国投資に関係してくるのは、中国が受け入れる「外国投資」の4分の3は今や香港からの投資であり、その少なからぬ割合は「返程(Uターン)投資」(※3)と呼ばれる中国本土企業による香港経由の投資と考えられるからだ。 国内の民間投資と外国直接投資受け入れのグラフを眺め比べると、両者には一定の相関関係がある気がしてくる。これは国際収支上の減少の主因だと考えられる金融取引とは異なり、商務部の統計にも表れる実物投資の減少だが、中国における外国投資の変化の一側面ではあるだろう。
米中対立で貿易構造に変化
もう一つの原因は米中対立に関わるものだ。統計ではうまく捕捉できていないが、過去5年米中対立激化の過程で、米国による対中関税の大幅引き上げや中国からの輸入制限拡大から逃れるため、外資・国内企業を問わず、東南アジアやメキシコに工場を移転する企業が増えた。そこだけを取り上げれば、外国投資の減少や製造業の空洞化が起きていることになり、中国にもそのことを不安がる声がある。 ただ、そこだけ見ていては、事の本質を見誤る。海外に移転したのは、主に完成品の組立工場であるが、彼らは工場の機械も素材や部品も中国から輸入している。つまり米中対立という環境変化に適応して、中国のサプライチェーンが海外に延伸しているのだ。 中国の貿易統計には、既にこの変化が表れている。中国の最大の輸出先は西側先進国ではなく東南アジア諸国連合(ASEAN)に代わり、輸出の内訳もスマホの組み立てのような低付加価値な完成品の割合が減り、素材や機械の割合が増えているのだ。米中対立の派生的影響として、特に中・ASEANの貿易投資関係が急速に拡大深化しつつあることに、われわれはもっと注意を傾けるべきである。 このように、中国の貿易・産業構造が変化しつつあることも、中国に対する外国投資や中国企業による対外直接投資に中長期的な影響を及ぼしていくだろう。