里中満智子「デビュー後アルバイト禁止と言われ高校中退、上京。『あした輝く』『天上の虹』など、決断するヒロインを描き続けて500作」
『アリエスの乙女たち』『あした輝く』『天上の虹』など500を超える作品を発表し、長年にわたり多くの読者に支持されてきた里中満智子さん。近年は国内外で漫画家の権利を守る活動や後進の育成にも尽力しています。その源にあるのは、幼き頃から変わらぬ決心でした。(構成:丸山あかね 撮影:大河内 禎) 【写真】20代の頃の里中さん。仕事場で * * * * * * * ◆真剣に愛することは力になる 「アルバイト禁止」の校則を守るよう高校から強要され、結局3年生の始業式を最後に、高校を中退。大阪から上京して、ひとり暮らしを始める。連載の打ち切りを経験したり、編集者に「君にはがっかりした」と言われたりしても描き続け、70年代には人気漫画家としての地位を確立した。 ――これまでに500を超える作品を描いてきました。歴史もの、戦争を題材にしたもの、恋愛や親子関係を描いたものなどテーマは多岐にわたります。 漫画の作り方は人それぞれだと思いますが、私の場合は、物語から入るほうです。この状況を乗り越えるにはどうすればいいんだろう。こんなシーンを描くには、どんな物語にしたらいいだろう。それを表すことができるキャラクター像が明確になっていって、だんだん形ができてくる。 『アリエスの乙女たち』は、血は半分繋がっているけれど、性格が全然違う2人の恋愛模様が描けたらと思って、始めたんですよ。離婚した父親と新しい妻との間にすぐ子どもができたら、異母姉妹で同じクラスという状況はありうるな、と。 毎回「愛とはなんだ」と、キャラクターたちに屁理屈をこねさせようと決めていたので、セリフをひねり出すのが大変でしたね。
完結までに32年もかかった『天上の虹』では、大好きな『万葉集』の世界を描きたかった。『万葉集』では、男も女も、天皇も流浪の民も区別なく歌が並べられています。かなり先進的です。 誰を主人公にしようと考えて、頭に浮かんだのが持統天皇でした。当時いい印象のなかった彼女の評価を、作品で変えることができたらと考えたのです。 『あした輝く』は、満州(現・中国東北部)から引き揚げてきたヒロインの物語。実際に体験された方たちの話を聞くうちに、記憶がだんだん風化していくのを食い止めねばと思ってね。 男の人にとって、戦いに向かう時に、誰かを真剣に愛することは、ものすごい力になるのではないか。だから、最後までいい形で愛し合っている夫婦を描きたいと思ったんです。 私自身、恋愛経験は少ないのですが、一度結婚しているというのが強みでして(笑)。思春期の頃からの憧れは、好きになる人は一生に1人、その人と添い遂げることだったんです。そんな男性に「出会った!」と思ったので、20歳の時に結婚。でも、3年半ほどで離婚してしまいました。忙しい毎日の中で、次第に気持ちがすれ違ってしまい……。 私は、昔からよく言われる「幸せにするよ」「幸せにしてね」という言葉が、気持ち悪くてね。「2人で人生を充実させよう」ならわかるのですが、「幸せ」なんていう主観的なものを、相手に委ねるのはどうなんだろう。同じ状況でも、幸せだと思う人もいれば、不幸だと思う人もいるわけですから。 同じように、私は「王子様に選ばれて幸せになりました」というシンデレラストーリーも苦手。もちろん夢を見るのはいいのですが、それは美しい花を見て「きれい」と言うようなもの。現実はまったく違います。むしろ結ばれた後から本当のドラマが始まるのではないでしょうか。 私の漫画では、恋愛の美しい面だけでなく、別離や浮気、望まぬ妊娠なども描きます。そのため、「子どもに読ませたくない」と世の親たちから批判されることもありました。でも私は、読者の女の子たちに、自分の力で生きていくことの素晴らしさに気づいてほしかったのです。 私の描くヒロインたちは、「自分で選んだ」という覚悟を持って生きています。何かを選ぶとは、何かを捨てるということ。自分の選択の責任を自ら引き受ける覚悟がなければ、自由に生きていくことはできません。私はそんな「決断するヒロイン」が描きたかったんです。