恋愛、治療薬、運動会もNG――宗教2世の漫画家が語った「生きづらさ」と「銃撃事件」
──どの宗教にも違和感を覚える教義があったのですね。取材のなかで、印象深いエピソードを教えてください。 「たとえば、iidabiiさんのお母さんがもっていたムチは、罰のときにたたくためのものです。これは棕櫚(シュロ。ヤシ科の植物)の茎に、わざわざ手書きで聖句を書き写していて……、その創意工夫に怖さを感じました。そのお母さんは、下絵を描いている段階でも驚きがありました。下絵は、お母さんが鬼の形相で彼を殴っている絵柄でした。iidabiiさんに確認してもらったところ、彼の返事は『違います』と。もっと無表情だったというのです。つまり、お母さんは腹いせ的に子どものiidabiiさんを殴っているのではなく、宗教で教えられた通り、我が子をパラダイスに導くためにたたいていたというのです。これには衝撃を受けました」
他者に理解されないのではという恐れ
菊池真理子さんは埼玉県生まれ。アルコール依存症の父と新興宗教信者の母のもとで育った。2017年、そんな自身の体験を描いた漫画『酔うと化け物になる父がつらい』を刊行。同作は2020年に松本穂香ら主演で映画化もされた。『毒親サバイバル』(2018年)、『依存症ってなんですか?』(2021年)など取材にもとづくノンフィクション漫画を描くなか、『「神様」のいる家で育ちました ~宗教2世な私たち~』を2021年9月から集英社のウェブサイトで連載していた。 ──ウェブをもとにした新著には7人の宗教2世の話が出てきます。そのかたたちは中学生ぐらいの時期に「うちはおかしい」と気づき、苦しみ始めていますね。 「みんな、自分のことを理解すると、それを他人に話さなくなっていくんです。なぜかというと、自分の家が(ほかの家と)違うと話そうとすると、宗教の前提条件の説明だけで長くなってしまうし、あやしいやつとかやばいやつと思われてしまう。結果、説明するのが面倒くさくなってしまうんです」 ──前提条件とはどんなことでしょう。 「たとえば韓国起源の宗教の人が、うちの宗教はキリストの生まれ変わりが韓国で生まれて……というところから話しだしたら、みんな『え?』となる。仏教系の家でも同じで、日蓮大聖人が……という話を誰が聞いてくれるのかと。なのに、家に帰ると、そんな『なんじゃこりゃ』という話を信じる母親がいて、一時的にでも信じこまされていた自分がいる。その葛藤に生きづらさがあるのです。でも、宗教2世の問題を受け止めてくれるカウンセラーはあまりいないのが現状です」