SUBARUのデザイナーが語る3Dプリンタ活用の心得
なぜ「HP Jet Fusion 3Dプリンタ」を採用したのか?
HP Jet Fusion 3Dプリンタを採用するに至った背景について、須崎氏は「選べる楽しさ(発表スライドの表記は「愉しさ」)」の追求と「共創・協創の時代」の到来の2つを挙げる。 「選べる楽しさ」の追求については、須崎氏自身がSUBARU車を購入しようとした際に、グリル部のデザインが1種類しかなく選べないことに疑問を抱き、「何とか増やすことができないか?」と考えるようになったことが、そもそものきっかけだという。 「ただ、そうはいっても簡単にバリエーションを増やすことはできない。デザインごとに金型を製作するなど、モノを作るために別のモノを作る必要がある。また、自動車部品の多くは複数のマテリアルの組み合わせで作られていることが多く、リサイクル性も悪い。さらに、倉庫で在庫を抱える(保管する)ためのエネルギーも必要となり、輸送時にはCO2を排出してしまう。このような現在のモノづくりの制約に対して、3Dプリンタ/AMが使えるのではないかと考えた」(須崎氏) そして、従来(今)のモノづくりの在り方に対する、3Dプリンタを活用した「これから」の姿として、須崎氏は3Dプリンタによる、いわゆる“ダイレクト製造”を提案する。具体的には、メーカー(SUBARU)側で複数パターンのグリルをデザインし、その3DデータをWebに公開しておく。そして、顧客はその中から気に入ったデザインを選び、サービスビューローなどを介して造形してもらったパーツを直接届けてもらう。「こうすることで、例えば、中間に掛かっていた在庫するためのコストや輸送時のCO2排出量を削減できる。このような新たな姿が、カーボンニュートラルの実現、モノづくり革新につながるのではないか」と須崎氏は述べる。 さらに、須崎氏は、顧客がほしいデザインを自ら作るようになる「共創・協創の時代」の到来にも期待を寄せる。「われわれ自動車メーカーが3Dデータを作って販売してもよいが、顧客が自らの手で作った3Dデータをアップロードして公開できるような場を、われわれが提供することで共創を生み出せるのではないか」(須崎氏)。 以上の考えに基づき、東京オートサロン2024で披露したコンセプトカー(SUBARU LEGACY OUTBACK BOOSTGEAR PACKAGE)のアクセサリー部品の製造に、HP Jet Fusion 3Dプリンタを採用。オーバーフェンダー部分のスペースに着脱可能な4種類のアクセサリーを、DMM.make 3Dプリントとともに作り上げた。使用した材料は強度だけでなく、耐熱性や耐候性にも優れる「HP 3D High Reusability PA12(ナイロン12)」だ。 4つのアクセサリーとは、サーフィンをするときなどにクルマのキーを一時的に入れておける「カギの保管庫(鍵付きロッカー)」、オートキャンプ場などの屋外で音楽を楽しみたい人向けの「スマートフォン用スタンドスピーカー」、メンテナンス工具やキッチンツールなどの取り付けが可能な「マグネットベース」、犬のリードなどを付けられる「パイプ」だ。それぞれ、オーバーフェンダーに設けられた取り付けスペース(「アクセサリースポット」)に自由に着脱して利用できる。「クルマに、発想次第で自由に使えるアクセサリースポットを設けることで、顧客自身がオリジナルのアクセサリーを製作したり、われわれが用意したものを購入して使ってもらったりなど、新たな仕掛けが考えられる」と須崎氏は説明する。 そして、先に提示した「これから」のモノづくりの在り方のさらにその先の「もっとこれから」の姿について、須崎氏は「自動車メーカー(SUBARU)と顧客の双方が互いにアイデアを出し合って、3Dプリンタがハブとなり、それを具現化していければもっと楽しいカーライフが送れるのではないか」とビジョンを語る。