なぜ久保建英は後半戦にパフォーマンスが低下したのか?今季真のブレイクに至らなかった理由
今季を徹底総括
レアル・ソシエダのMF久保建英は2023-24シーズン、ラ・リーガ30試合に出場し、7ゴール・4アシストを記録。ラ・リーガ月間MVPも受賞した一方で、シーズン後半はやや尻すぼみとなった感も否めない。現地記者は今季をどのように見たのか。シーズンを総括していく。 レアル・ソシエダ来日メンバー 文=ハビ・シジェス(Javi Silles)/スペイン紙『as』副編集長 翻訳=江間慎一郎(Shinichiro Ema) 久保建英は完全には変わらなかった。今季はその眩く輝くであろうキャリアの“以前”と“以後”をつくるシーズンになると思われたが、結局そうならなかったのだ。 レアル・ソシエダに所属する日本人はシーズンが深まるに連れて存在感を失っていき、ワールドクラスの選手となるまでには至らなかった。クリスマスまでの彼は期待の若手というレッテルを剥がして、真のブレイクを果たすことさえ予感させたものの、それ以降に大きく失速してしまった。俯瞰してみれば悪いシーズンとまでは言えないのかもしれないが、それでもその活躍は彼自身が呼び起こした期待の高さまでは及ばず、中途半端となってしまった印象が強い。 久保が失速した責任を彼だけに押し付けるのはフェアではないのかもしれない。シーズン後半戦に勢いを落としたのはラ・レアルも同じで、それも日本人の成果の乏しさと関連付けることができる。しかし、これは卵が先か鶏が先か、という話でもある。果たしてラ・レアルはチーム全体で失速したのか、それとも久保の失速がチーム全体に大きな影響を与えてしまったのだろうか? おそらく、そのどちらでもあるのだろう。ラ・レアルと久保のフットボール的な後退は、集団としても個人としても起こったのだった。
なぜパフォーマンス低下を招いたのか?
シーズン後半戦、もっと言えばアジアカップ参加後の久保は、精神的にもフィジカル的に不調に陥っていたようだ。シーズン前半戦には6得点3アシストを記録したものの、アジアカップ後に残した数字は1得点1アシストのみにとどまっている。後半戦、彼が最高のパフォーマンスを見せたのは、おそらくアウェーでのパリ・サンジェルマン戦だった。その一戦では世界にその実力を見せつけてやろうという確かな気概を感じさせたが、そうした試合は片手で数えられるほどしかなく、総じて彼の影響力は大きく低下していた。 なぜ、そうしたことが起こったのだろうか? シーズン後半戦、久保のプレーエリアはかなり限定されていた。加えて、その高いテクニックを駆使したプレーはひどく冗長なものとなり、然るべき効果性を失っていたのだ。 久保のプレーの落ち込みぶりを分析すれば、すぐに気づくことがある。そのプレーエリアは右サイドだけに限定され、中央にはほとんど顔を出していないのだ。右サイドで孤立する彼は、まるでそこから離れることを禁じられているかのようだった。久保のような特徴を持つ選手は本来、ボールを持っていないときには自分のサイド&マークする相手から離れてパスを受けたり、マークを外してDFラインの突破を狙ったり、ペナルティーエリアに侵入したりするべきなのだが、アジアカップ後の彼はそうした動きを許されていないようにすら見えた。例えばレアル・マドリーのヴィニシウスは今季、ウィングだけでなく中央でのプレーも進化させ、今夏同クラブに加わるエンバペも似たようなプレーを得意としている。久保も本当は、彼らのような特徴を備えているはずだ。 久保は右サイドに引きこもるだけでなく、その類い稀なテクニックを無駄遣いしている。ボールを保持する彼は、チームメートにパスを出すべき場面でも個人主義に走ってドリブルを仕掛けることに執着(当たり前のように1人目をかわせるのは凄まじいが、向こう見ずなために2人目で潰される)。長所の一つだった最適解となるプレーの選択ができなくなっていた。シーズン後半戦の彼はラ・レアルの攻撃の解決法ではなくなり、それゆえに単純に縦に速く、アグレッシブなベッカーに定位置を奪われもしている。