なぜ久保建英は後半戦にパフォーマンスが低下したのか?今季真のブレイクに至らなかった理由
痛かったシルバの不在
だが前述の通り、勢いを落としたのは久保だけではない。ラ・レアルも久保とシンクロして、シーズン前半戦(とりわけ序盤)の好調ぶりを後半戦まで維持することができなかった。要因の一つに挙げられるのは、今季ビジャレアルで大ブレイクを果たしたセルロートのような良質なストライカーが不在で、前線での連係が確立できなかったこと(アンドレ・シウバとサディクのパフォーマンスは期待外れ。オヤルサバルはよくやっていたが9番の選手ではない)。そのために久保のほか、逆サイドのバレネチェアも今季は苦しむことになった。 加えて今季の久保とバレネチェアは、前十字靭帯断裂で引退したシルバの創造性も補う必要があったが、エル・マゴ(シルバの愛称、魔法使いの意)の空けた穴を埋めることはやはり難しかった。シルバは極上のテクニックとスペースの管理能力でチーム全体をつなげられる存在であり、チームメートのパフォーマンスを最大限引き出すことができた。久保はあと1シーズンだけでも彼のそばでプレーし、その考え方を吸収できたら良かったのだが……(シルバならば個人主義に走る彼を叱ることだってできただろう)。
ラ・レアルは久保にとって理想的なチーム
今季後半戦の低調な内容から、日本では久保に移籍を勧める意見が出始めているという。しかし私にしてみれば、そんなことは議論の必要すらないように思える。なぜならばラ・レアルは今現在も、久保が成長を続けるための理想的なチームであり続けているのだから。今季つまずいたならば、なおのことである。 イマノル&ラ・レアルのフットボール哲学は、久保という選手の特徴に間違いなく合致している(今夏、適切な補強を行うことは必須だが)。そして久保に求められるのは、シーズン序盤には間違いなく立っていた、成功の道から外れないことにほかならない。彼は継続的に結果を出す必要があり、そのためには出場機会を手にし続け、日々プレーを改善していかなくてはならない。 日本からのアクセスを狙う無責任なイエロージャーナリズムのメディアは、欧州を代表するビッグクラブが久保の獲得に熱心になっていると騒ぎ続けているが、そんな扇情主義の情報に価値などない。この日本人が今すべきことは、そうしたビッグクラブに移籍するため、もっと言えばそうしたクラブで活躍するために、ラ・レアルで議論の余地ないスター選手になることなのだ。 久保にはビッグクラブで活躍するためのポテンシャルが間違いなく備わっている。だが今の段階でビッグクラブに加入し、ベンチ要員として途中出場から一か八かの勝負を仕掛けるよりも、ラ・レアルで問答無用の活躍を披露し、満を持してステップアップを果たすべきだ。現状の久保ではマドリーのブラヒムやギュレル(枠内シュート6本で6得点)のように、限られた出場機会とシュートチャンスで結果を出せるかは疑わしい。ラ・レアルの14番はチームを勝利に導くプレーを、シーズンを通してコンスタントに見せ続けなければならない。 久保は1月から5月までの低調なプレーを良い教訓とすべきだ。彼が期待されている通りの選手となるためには、ラ・レアルで落ち度のないシーズンを過ごす必要がある。生き急がず、自分の現在地をしっかりと把握し、一歩一歩確実に進んでいく……。この日本人のポテンシャルならば、ほんの一握りしかたどり着けない場所まで到達できるはずなのだから。
ハビ・シジェス(Javi Silles)