【視点】民意は「政権交代」まで望まず
衆院選を受けた特別国会は11日召集され、石破茂首相が再び首相に指名される可能性が大きくなった。与党の自公は過半数を割り込んだものの、首相指名選挙で野党が一致して立憲民主党の野田佳彦代表に投票する状況には至っていないためだ。とりあえず政権交代は起こらない見通しだが、自公は少数与党として苦しい政権運営を迫られる。 自公が過半数を割ったのは政権交代を求める民意の表れという見方もあるが、今回は違うだろう。2009年衆院選の民主党政権誕生時とは全く状況が異なる。 当時は野党だった民主党が単独過半数を得て政権を奪取した。だが今回は自民党が比較第一党を維持している。立憲が議席を増やす一方、立憲より保守中道寄りの政策を掲げる国民民主も躍進し、キャスティングボートを握るような立ち位置になった。 国民民主、日本維新の会とも立憲との協力には消極的で、首相指名選挙では野田氏ではなく自党の党首に投票する考えを示している。 衆院選で示された民意としては、現政権に対する不信感から自公の過半数維持は望まないが、一方で立憲中心の政権誕生にも拒否感が示されたと見るべきではないか。 立憲中心の政権に対する不安が根強いのは、立憲の公約が実行された場合、日本存立の根幹ともなる外交・安全保障政策の継続性が保たれない可能性があるためだ。 立憲は現行の安保法制については「違憲部分を廃止する」としており、安倍晋三政権下で進んだ集団的自衛権行使の議論が大きく逆戻りする恐れがある。外交の基軸となっている日米同盟への悪影響も免れない。 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に関しては、立憲は「辺野古新基地建設を中止」するとしている。 沖縄では辺野古移設に反対する「オール沖縄」勢力が衰退し、県民の関心は返還後の普天間飛行場跡地をどう利活用するかに移り始めた。衆院選でも、辺野古移設の是非はもう主要争点から外れている。 この段階で辺野古移設の中止に踏み切れば「最低でも県外」を掲げて大混乱を招いた民主党政権の二の舞になるはずだ。 沖縄や台湾周辺で中国の軍事活動が活発化する中、自公政権は「南西シフト」と言われる沖縄での自衛隊増強を進めている。だが衆院選で沖縄の選挙区に立候補した立憲の候補は「南西シフト」に否定的な考えを示した。 立憲が政権の主導権を握れば、従来の安全保障政策が覆る恐れがある。これでは、中国の軍事活動の矢面に立たされている沖縄県民の安全は守れない。 立憲が野党第一党として国民に信頼される外交・安全保障政策を示さない限り、民主党政権誕生時のような政権交代は望み薄としか言いようがない。 衆院選を受け、自公が政策ごとに維新や国民民主と合意し、法案の国会通過を目指す状況がしばらく続く。このスタイルがまさに、衆院選で示された民意でもあるだろう。 自公としては来年の参院選までには政策の実績を積み上げ、参院選の勝利、さらには次期衆院選での過半数回復につなげたいところである。だが政治不信を払拭できなければ、このまま少数与党の不安定な政権運営が定着する可能性もある。