辞めたくなった過去も糧にした板金店3代目 端材で生みだしたオリジナル雑貨を世界へ
雑貨店での経験が役立つ
休日や夜間など本業の合間の作業で、作れる数に限りはありますが「ダブルワークは雑貨店で働いていたときに慣れています。雑貨店で身につけたラッピングの技術も役に立っています」。 現在、Akakane.のECサイトで扱っている商品は50アイテム以上で、価格帯は3千円台から1万5千円です。2023年の雑貨の売り上げは150万円程度ですが、帳簿を付け、確定申告をすることで経理の勉強にもなっています。 作家活動は充実していますが、あくまで奥井板金店の本業に還元するためといいます。 「三重に面白い板金屋さんがいると業界内で広がり、イベントに声をかけていただいたり、インスタで発信を周知につなげたりして、数ある板金店のなかで差別化につながればと思っています」 「家族3人で仕事をしている分には、経営面は安定しています。余裕のあるうちに自分の代になったときのことを準備しておきたい。会社のホームページやネットを活用した事業展開などやってみたいことは色々あります」
マレーシアの蔦屋書店で展示
そして、晴れ舞台が訪れました。2024年4月から2カ月間、奥井さんが作った銅板製のコーヒー用品と鍋敷きなどが、マレーシアの蔦屋書店に展示されたのです。施工支援サービス会社ハウスケープ(東京)が屋根工事業者4社の作品を集めたポップアップイベントで、そのうちの1社に選ばれました。 以前から面識のあった東京の板金店が、ハウスケープに奥井さんを推薦してくれたことで実現したといいます。 このイベントは雑貨を通して、日本の屋根文化や技術を世界へ広める取り組みです。当初は1カ月の予定でしたが、好評につき期間が延びました。 「屋根業界や板金業界で雑貨を作って販売するケースは珍しく、今までは1人で細い道を必死に歩いているような気持ちでした。でも、同じように活動されている方とチームになれたことで道が広がって自信が付きました。海外出展を続け、同じ志を持った仲間を増やすことで新たなビジネスのステージが見えれば面白いですね」 奥井さんの夢は「雑貨店も経営する板金店」です。穏やかな語り口の中に秘めた熱い思いを胸に、今日も端材に命を吹き込みます。
フリーランスライター・神崎千春