辞めたくなった過去も糧にした板金店3代目 端材で生みだしたオリジナル雑貨を世界へ
建築板金を生かした雑貨づくり
2020年春、奥井さんはコロナ禍で空いた時間を使い、自宅横の倉庫を工房にして銅板での生活雑貨づくりを始めます。 最初に手がけたのは銅製のトレーです。趣味で集めた酒器をのせるため、銅の端材を加工して、好みのサイズで作りました。屋外で使うキャンプ用品、鉢カバーやスコップなどのガーデングッズも製造しました。 奥井さんのこだわりは、建築板金の技術を生かした雑貨づくりです。祖父が創業時から使っていた道具を使い、釘を使わないハゼ組みの技術で一つひとつ手作業で仕上げています。 「銅板の雑貨は他の素材より軽く、割れる心配もないので持ち運びしやすく、耐水、耐火に優れているという素材の強みがあります」 奥井さんは通販サイト開設サービス「BASE」を利用して「Akakane.」(アカカネ)というECショップを開きました。「フリマサイトやハンドメイド雑貨専門サイトなども調べましたが、売値がすごく安かった。技術や付加価値に目を向けてほしいと思い、自分でネット販売することにしました」 店名のアカカネ(赤金)は銅のことです。店のロゴも奥井さん自身がデザインしました。「最初はサイトへのアクセス数も少なく、商品もトレーくらいしかなくて、全然売れませんでした。魅力的な商品づくりと周知が必要だと思いました」
多彩な注文を受けて評価を高める
奥井さんが試行錯誤していたころ、旅先の富山県で木工作品をつくる作家と出会います。互いの作品について話をしたところ、富山県の古物商が運営するオンラインセレクトショップ「ハモニ」を紹介されました。 そのサイトでは、複数の作家が手がける手仕事の生活道具を扱っていました。統一感のある、センスの良い品ぞろえで、素材や手仕事のことが詳細に書かれたページになっており、奥井さんも自分の作品を扱ってほしいと思ったのです。 奥井さんはハモニの店主からオンラインで頼まれて作品を製造しました。注文を受けてから図面を書き、試作を重ねて微調整をしながら制作。建築板金技術を生かして、どんなオーダーも形にするため、店主からの依頼も途切れませんでした。 現在、販売しているのはハンギングハンガー、本立て、鉢カバー、スコップ、ドリッパースタンド、ハンギングプレートの6種類で、新作も予定しています。「具体的な商品を依頼されて、制作するスタイルが僕には良かったです。何でも作れる技術はあるけど、オリジナリティーは無いので」と笑います。 それらを自分のインスタグラムで紹介すると、フォロワーもネットショップのアクセス数も増え、キャンプ用品の店やインテリアショップとの取引が広がりました。