耐久のポルシェ復活!を印象づけたWEC富士6時間の勝利の裏側
ポルシェペンスキーモータースポーツのハイパーカー、ポルシェ963の6号車は9月15日に富士スピードウェイで行なわれたFIA世界耐久選手権(WEC)第7戦富士6時間で総合優勝を果たした。2023年シーズンからWECに出場しているポルシェ963は、開幕戦のカタール1812kmで6号車がポルシェにハイパーカー時代初の優勝をもたらしており、富士6時間での勝利で今季2勝目となった。 TEXT:世良耕太(SERA Kota) 苦しんだ2023年シーズンから、タイトル獲得が見える位置まできたポルシェ この勝利により6号車のドライバー(L・ヴァンスール、A・ロッテラー、K・エストレ)はドライバーズチャンピオンシップで首位の座を維持したまま、11月2日に決勝レースが行われる最終戦、バーレーン8時間に臨むことになる。また、マニュファクチャラーズチャンピオンシップでは、今回の勝利で首位に返り咲き、最終戦でハイパーカー時代初のタイトル獲得を狙う。 ポルシェ963の初優勝が今季に持ち越しになったことが示すように、参戦初年度の2023年は思うような結果が出せず、苦しんだ。ファクトリーモータースポーツLMDhディレクターのウルス・クラトル氏は富士での戦いの前に、次のように説明した。 「ポルシェはWECだけでなく(アメリカの)IMSAに同時に参戦することに決めた。さらに、(ワークス的な位置づけのポルシェペンスキーだけでなく)カスタマーチームにも車両を提供することにした。『苦しんだ』という表現は使いたくないが、厳しい時期を過ごしたのは間違いない。原因のひとつはサプライチェーンだ。車両製作に必要な材料を手に入れることができなかった。問題が発生した場合は新しいパーツを用意しなければならないが、パーツを作るための材料が手に入らなかった。昨年は6台から8台の車両を走らせたが、台数が多いほど問題は深刻になる」 問題はそれだけではなかった。 「昨シーズンの序盤は、信頼性が望むべきレベルに達していなかった。シーズンを戦いながら信頼性の問題を解決するのはとても難しい。パフォーマンスに欠けていたのも事実だが、これらの課題はシーズン中に克服することができ、シーズン終盤には満足のいくレベルに達した。経験の積み重ねが自信にもつながっていった」 ポルシェは1年目のシーズンに経験した“問題”をほぼ解決した状態で2年目となる2024年シーズンに臨むことができた。とはいえオールマイティではなく、963にとっては得意とするコースと苦手とするコースが存在するという。得意とするのは路面がフラットで、ストレート区間の比率が低いコースだという。 「最高速に劣るのは事実で、ル・マン24時間ではそれが目立ってしまった。ル・マンはストレートしかないようなものだからね。富士には長いストレート(約1.5km)があるが、いい結果を期待している。なぜなら、長いストレートがある一方で、カーブの多い区間(最終セクター)があるからだ。この区間は我々にとってアドバンテージだ。 それに、路面がフラットなのがいい。我々のクルマはバンピーなコースには合っていない。(大部分を公道区間が占める)ル・マンも相性は良くない。勝利を挙げたカタールは路面がとてもフラットなため、我々のクルマに完璧にフィットした。富士の路面もスムースなので、期待できると考えている」 ポルシェ963で戦ったレースのなかで、間違いなく最高のレースのひとつ 5番グリッドからスタートしたポルシェ963・6号車は序盤に3番手までポジションを上げると、レース開始1時間あまりで各車行なった最初のピットストップが終了した時点で首位に浮上。以後、終始トップ争いを演じ続け、最終的には2位に16秒の差をつけ(6時間耐久レースであることを考えれば、僅差である)、トップでフィニッシュした。 「ポルシェ963で戦ったレースのなかで、間違いなく最高のレースのひとつだ」と、レース後のクラトル氏。「戦略は完璧で、ピットストップも素晴らしかった。ドライバーズランキングでポイントリードを広げ、マニュファクチャラーランキングではトップの座に返り咲いた。ポルシェペンスキーモータースポーツのクルー全員をこれ以上ないほど誇りに思う。富士で素晴らしい一日を過ごすことができた」 富士スピードウェイでは2012年から「WEC富士6時間耐久レース」が開催されている。初開催の2012年以来、地元トヨタが圧倒的な強さ誇っているが、2015年はポルシェが一矢を報い、919ハイブリッド17号車(T・ベルンハルト、M・ウェバー、B・ハートレー)が優勝。18号車(R・デュマ、N・ジャニ、M・リーブ)が2位に入ってワンツー・フィニッシュを達成した。 クラトル氏は「ポルシェはトヨタ以外で富士6時間を制した唯一のマニュファクチャラー」だと戦前に話していた。自慢ではなく、「富士で勝つのは簡単ではない」という意味でそう言ったのだ。2024年のレースでは、その「簡単ではない」富士を再び制し、実力を示した。ポルシェが持ち前の強さを取り戻しつつある、何よりの証拠だろう。
世良耕太