気がついたら葉山で16年ーー長澤まさみとも共演、農業に勤しむ謎の米俳優
「セリフもまったくなくて、まっすぐに、ピンと立っていることが僕の演技。ワインを注ぐときだけ、超緊張(笑)。でもそこで、ゆっくりと周りを観察することができたんです。この人はこう演じるのか、カメラマンはこう動くのか、って。俳優の仕事に、どんどんのめり込んでいきました。撮影の間、楽屋でみんなと話すことも楽しくて仕方がなかった」 現在、42歳。30代の後半、日本で俳優という天職に出合えたというマイケル・キダとは、いったいどんな人物なのだろうか。
「なんちゃって俳優」じゃないか、って落ち着かなかった
アメリカ、ニューヨーク州出身。学生時代はオハイオ州で過ごし、大学では心理学とイタリア語を学んだ。イタリア留学の後、大学院に進み、心理学のカウンセラーになろうと考えていた。 「カウンセラーになったらもう、仕事の毎日になる。その前に3年間くらい、海外へ“経験”を稼ぎに行こうかな、と。ソウルに1年間いて、それから日本に来たら、たまたま、葉山のインターナショナルスクールが講師を募集していたので、面接に来てみたら……この景色に、いっぺんに惚れ込んでしまいました。友達もどんどん増え、結婚もして、気がついたら16年。たぶん、日本の中で、一番面白い人たちが集まってる町なんじゃないかな」 教員職を辞した後、飲食店を共同経営する傍ら、英語や農業、料理のレッスンをしていた。そこで番組の担当者と知り合い、NHKの情報番組「TOKYO EYE 」に出演したのが、この世界に入るきっかけだ。バラエティー番組やCMでも声がかかるようになり、地元のテレビ局では生放送の料理コーナーも担当した。 「はじめはタレント業も、お小遣い稼ぎになるかな、っていう感覚だったんです。俳優の仕事をするまでは、ね」
「コンフィデンスマンJP」シリーズは好調で、映画も続いた。 人生の大きな川に流されるように、マイケルは俳優の仕事を次々と得ていく。 「子どもの頃から目指していたわけではないし、最初はなんだか、僕は『なんちゃって俳優』じゃないか、って落ち着かなかった。でも、アメリカのPodcastでも、有名な俳優たちが『最初はみんなそうだよね』って話していて。『自分を信じていないと、演じることなんてできない。気がついたら俳優になっているんだよね』って。だから、僕もどんどん、本気で俳優という仕事に向き合うようになりました。難しい、でも、だからこそチャレンジしがいがあります」 数年前から、脚本の執筆にも挑戦している。 日本のドラマも改めて見直し、『ビーチボーイズ』にはまったことから、『マイケル版、大人のビーチボーイズ』の脚本も1シーズン分書き終えている、と胸を張る。いつか自分の書いた作品で、監督もしてみたい。これが、一つの目標だ。