“福祉施設”なのに業界最高水準の焙煎機を扱う「ロースタリーカフェ」。上野駅構内にも進出、焙煎士のプロを目指す
東京・小川町。黒とグレーを基調としたシックな空間に、温かな木の家具とオランダの焙煎機・GIESEN(ギーセン)が映える、コーヒーショップ「ソーシャルグッドロースターズ 千代田」。 【全画像をみる】“福祉施設”なのに業界最高水準の焙煎機を扱う「ロースタリーカフェ」。上野駅構内にも進出、焙煎士のプロを目指す だが、ここはただの“コーヒーショップ”ではない。実は、障がい者が働く福祉施設(就労継続支援B型事業所)だ。
無農薬で高品質な豆を公平な取引で
「違いを認め、お互いを尊重する」という福祉や多様性に対する姿勢から、個々の豆の個性を引き出して、複数の豆をブレンドしたコーヒーにこだわって販売する。 看板メニューの「SOCIAL GOOD BLEND」は、酸味・甘味・苦味のバランスが取れた、華やかで軽やかな口当たりで、誰の生活にも馴染む1杯だ。 他にも、「季節ごとにあった味わいとは何か?」を考え抜いた、4シーズンに1つずつの季節限定メニューも展開。使用するのは、世界中から厳選した無農薬で高品質の豆だ。 店内奥には、別の就労支援施設で製作されたモダンなベンチの並ぶベランダ席も。晴れた日に、気持ちいい日光を浴びながらいただく1杯は格別だ。取材当日も、ベランダ席は親子連れや若者で賑わっていた。
障がい者が「週末に会う気のいい友達」になるまで
就労支援施設であるこのロースターを運営するのは、一般社団法人ビーンズの代表・坂野拓海。 ビーンズを立ち上げる前は、コンサルタント職一筋だった。 もともと人が困っていると助けたくなるたちだったという坂野は、企業の困り事を方針と戦略を立てて解決するコンサルタント職に夢中になった。 当時の残業時間は300時間、まさに「ワークイズライフ」だったと振り返る。上司にも恵まれ、無我夢中で働く一方で、徐々にちょっとした違和感を覚えはじめたという。 「問題を解決したいとか誰かの役に立ちたいという気持ちはあったんですけど、なんとなく大きな会社を相手にすることに疲れてきたなと思ったんです」 新卒から3年が経った2006年、上司に相談すると「個人の問題を解決する方が向いているのでは」と提案され、別会社の人事専門のコンサルタント職に転職した。 担当となったのは、障がい者の採用部門だった。今よりもあらゆることへの偏見も多かった時代だったと話す坂野自身も、初めは障がい者に対して接した事が無く、世間一般と同じ“よく分からない”というイメージを持っていた。 そもそも障がいを抱える人たちに会う機会が足りていないのではないか── 。 そんな問題意識から、週末を使って移動支援のボランティアを始めることに。ディズニーランドや公園で子どもから大人まで障がいを抱えるあらゆる人たち過ごすうちに、徐々にそのイメージも変化していった。 「純粋に一緒に遊ぶ時間が楽しくなってきて。だんだん『週末に会う、気のいい友達』という感覚になっていきましたね」 移動支援のボランティアを重ねていくと、徐々に利用者が心を開いていろいろな話をしてくれた。だが、当事者もその家族も、話してくれる内容は将来に対する不安が多かったという。中でも特に多かったのは「子どもが大きくなった時に、働ける場所がない」ということ。 ただ、実際に企業の障がい者採用に関わってきた坂野は疑問に思った。「仕事がないわけがない」と。そう思い、当事者や家族に付き添いハローワークに行くと、意識が変わったという。 「実は募集自体は1000件以上あったのですが、職種がすごく少なかったんです。そのほとんどが軽作業などの単純作業や、事務作業などの裏方の仕事ばかり。 そこでやっと、当事者や家族が言っている意味が理解できました。『仕事がない』じゃなくて『やりたい仕事がない』という意味だったんです」 人事コンサルタントの会社を約6年で辞めたのち、しばらくは移動支援を続けながら、ノマドワーカーとして世界を旅しながらコンサルタントの仕事を続けていたが、当時の気づき対する具体的なアクションができない日々が続いた。 だが、ずっと思っていたのは「『しょうがない』で済ませたくない」ということだった。 コンサルタント職としての“問題解決意識”についに火がついた坂野は、「自分がやるしかない」と決意。旅を終えて、2016年、一般社団法人ビーンズを立ち上げ福祉施設の経営に乗り出す。