“福祉施設”なのに業界最高水準の焙煎機を扱う「ロースタリーカフェ」。上野駅構内にも進出、焙煎士のプロを目指す
全員が焙煎機を使いこなせるように
コーヒーを通して、障がい者と健常者の隔たりをなくしつつある「ソーシャルグッドロースターズ」の取り組みは、実はこれだけではない。 売り上げは、医療・福祉従事者への寄付と、気候変動の影響でアラビカ種のコーヒー栽培に適した土地が2050年までに半減するとされている「コーヒーの2050年問題」への取り組みとして、各国の生産者、焙煎・製造の過程で働く人々の支援などに還元される。海外でコーヒーづくりのプロを育成するための教育費などにも使われるという。 理由を聞くと、ボランティアを通して障がいを抱えた人と長い時間を過ごしてきた坂野だからこその思いがあった。 「『障がい者=支援される人』というイメージを変えたいと思ったんです。トップクラスの技術でおいしいコーヒーを作って、仕事の成果を通して社会に還元することができたら、スタッフの自信と誇りにもつながると思うんです」 「障がい者支援」をしているのではない。スタッフが望むなら「一人前の焙煎士」になれる環境をきちんと作りたい。そんな思いから、焙煎士の世界大会で使われるほどの最高水準の焙煎機であるGIESENを導入。 購入当初は誰も触れなかったというが、今では在籍する多くのスタッフが経験を積みGIESENを使いこなしている。 一般的なコーヒー店では、焙煎士すなわちヘッドロースターが味を決めることも多い。だが、ここでは、「自分たちが出すコーヒーに責任を持ってほしい」との思いから、担当は限定していない。 スタッフたちは豆の輸入の段階から関わり、複数人の焙煎士によって、コーヒー豆の状態や焙煎の具合を確かめるカッピングをしながら、味を調整していく。さらにそこから、バリスタとして店頭で抽出し、お客さんのもとに届くまでの全ての工程を全員が経験できるようになっている。 もちろん、外部アドバイザーの熟練の焙煎士にクオリティチェックをしてもらうこともあるというが、基本的な立場は「アドバイスはしても、手は貸さない」というもの。 おかげで、仮に体調を崩した人がいても、いつもの味を提供できることに加え、全員が自分の仕事に誇りを持てる。