折り紙でホイップクリームを作る?独自開発のソフトウェアと折り紙で無限のかたちを作り出す教授の突き抜けた発想
■ 折り紙でホイップクリームはつくれるか? 三谷:世の中の折り紙のほとんどは直線折り、平面のみで構成されています。正直なところ、少し手先が器用な人であれば、誰でもできてしまいます。 でも、折り線に曲線を入れることで、出来上がった立体に曲面を持たせることができる。そこが、今までの折り紙との大きな違いであり、私の研究の新奇性だと思っています。 加えて、曲面があると見た目がきれいな立体ができます。 今までにない折り紙をつくりたい、アート的な位置づけも大事にしたいということで曲線、曲面に重点を置いています。 ──どのようなかたちのものをつくるのかという発想はどこから得ているのでしょうか。 三谷: ORI-REVOで適当に点や線を描いて完成図を見ながら「あ、なんかこれ、かっこいいな」と思ったものを折ることが多いです。 ほかにも、気球のようなかたちのものをつくってみよう、とか、卵を包んだようなかたちのものをつくってみよう、というようにイメージを膨らましていくこともあります。 ──ORI-REVOで形状を考えているときと実際に折っているとき、どちらが楽しいですか。 三谷:折っているときですね。実際に手の中で紙がどんどん立体に仕上がっていく過程は、何度やってもわくわくします。うまくいかないときにイライラしてしまうこともありますが。 ──これまでつくった作品の中で、一番の自信作の紹介をお願いします。 三谷:一つひとつ思い入れがあるのですが、これまでに一番多くつくった「ホイップクリーム」という作品が個人的には好きです。 ホイップクリームは、折り線が非常に少ないにもかかわらず、丸いきれいな曲面ができるので、とても気に入っています。 ──今後、どのような形状のものにチャレンジしてみたいですか。
■ 数学的に成り立たない形状も折り紙であれば可能 三谷:コンピューターでは設計できないようなものを折ってみたいです。というのも、コンピューターは数学に基づいているので、厳密につくれるかたちしか設計することができません。 けれども、紙は微妙に伸び縮みします。シミュレーション上は、この折り目とこの折り目はぴったり合うはずなのに、折っていくとちょっとずれてしまう、ということがあります。これは、紙という素材を扱っている上ではどうしても避けられないことですが、それを逆手にとった形状を創ることもできるのです。 例えば、この円柱に彫刻したようなかたちの作品。数学的には成り立たない形状です。数学的には、このようにぴったりと閉じた筒状になることはありません。もし、筒状にしようとすれば、どこか折り目同士がぶつかってしまったり、表面を見たときに凹凸ができたりするはずです。 でも、指で紙をいじっていると、0.1ミリ、0.2ミリのずれが生じて、たまたま筒状のものが出来上がる。長年やっていると、そういった「たまたま」が起こるか起こらないのかも、直感的にわかるようになってきます。 ソフトウェア上では設計できないようなものを、折り紙できれいにつくり上げる、再現が非常に難しいものをつくり上げるということが目標です。「三谷じゃないと折れない」というかたちのものを折ってみたいです。 ──2019年から、他大学の工学系の研究者の方々とCREST(※)で「設計の新パラダイムを拓く新しい離散的な曲面の幾何学」というテーマの研究をしていると聞きました。 ※CREST:基礎研究向け研究費助成事業の一つ。文部科学省の外郭団体である独立行政法人科学技術振興機構が行っている 三谷:このプロジェクトは、数学のみでは太刀打ちできないような社会課題や技術課題を解決するため、数学を専門とする先生方が工学系の先生方とチームを組んで立ち上げたものです。 ここで言う「離散的」というのは、「デジタル化」という意味と、折り紙の折り目のような特異点を持つ形状のことを指します。さまざまなものを設計するための数学的な知見を「デジタル化」することで、今まで設計から解析、製造までの一連の工程が一方向だったものを循環させようというコンセプトです。 私は他の先生方とバックグラウンドが異なるので、定期的な会合はとても刺激があって楽しいです。 このプロジェクトの中での私の役割は、折り紙を工学的に役立たせるための技術開発です。多様な素材を加工して立体化するという工程はあらゆる産業分野で行われています。そこに、折り紙の研究で得られた知見を組み込んでいくことを目標にしています。 ORI-RAVOのような折り紙の設計ソフトウェアを、誰でも簡単に使えるように新たに提供する、ということも考えています。産業に応用可能なソフトウェアを準備中という段階です。