【イベントレポート】「西湖畔に生きる」グー・シャオガンが山水映画を語る、過酷な現場の裏話も披露
中国映画「西湖畔(せいこはん)に生きる」の先行上映が8月27日に東京のBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下で開催され、監督のグー・シャオガン(顧曉剛)が登壇した。 【動画】「西湖畔(せいこはん)に生きる」予告編 本作は中国茶・龍井茶の生産地として有名な西湖のほとりで暮らす母子を軸に展開する物語。あるきっかけでマルチ商法の地獄に落ちていく母・タイホア(苔花)をジアン・チンチン(蔣勤勤)、母を救うため一線を越える息子・ムーリエン(目蓮)をウー・レイ(呉磊)が演じ、母子を守ろうと心を寄せる茶畑の主人にチェン・ジエンビン(陳建斌)が扮した。 グー・シャオガンは「去年の東京国際映画祭で本作が上映され、来日してご挨拶しました。幸運なことにたくさんの方に注目していただき、山田洋次監督と対談もできて夢見心地でした。今回また日本に来て、さらに多くの皆さんに作品をお見せできることがとてもうれしい」とにこやかに挨拶をした。 ■ 山水映画というものが1つのジャンルにならないか? 前作「春江水暖~しゅんこうすいだん」にはグー・シャオガン自身の親戚がキャストとして出演したが、今作ではウー・レイやジアン・チンチンといった豪華俳優陣が参加した。MCに「長編2本目で大きくスケールアップしましたが?」と振られたグー・シャオガンは「僕は映画学校で制作を学んだわけではありません。前作は初めての長編劇映画で、インディペンデントな方法で制作しています。なので、もっといろいろな技法を学びたいという気持ちがありました。今回は幸運なことにスター俳優を起用することができて、産業のルールにのっとった、規模がまったく違う方式で製作できました」と振り返る。 グー・シャオガンは、山水画の哲学を取り入れた自身の映像表現を「山水映画」と呼んでおり「前作は山水画の『富春山居図』から出発し、山水映画という映像言語の可能性が見えてきた段階でした。今回は、山水映画というものが1つのジャンルにならないか?という追求をしてみたかった。犯罪映画やロードムービーのようなジャンルということです」と説明。MCから補足的に「今回は山水映画で犯罪もの、次は山水映画でラブロマンス……といったことでしょうか?」と聞かれると、「そうですね」とうなずく。 ドローンを使い、上空から山々や茶畑を映したシーンにも言及。「今作では山水画の、遊観という原理を使いました。これは必ずしも写実的な映し方ではありません。1つの画面の中に、複数の空間、異なる時間を並列させています。冒頭のシーンは、その考え方を翻訳して映像にしたもの。脚本を書いている段階で、あの描写を考えていました」と述べる。 ■ 撮影後、1時間ほど泣き続けたウー・レイ 続いて、話題は俳優陣の熱演について。グー・シャオガンは今作を「地獄の旅のようだった」と表現し「なぜかと言うと、俳優の方を打ち砕くような撮影だったからです」と続ける。マルチ商法の洗脳シーンではジアン・チンチンに洗脳過程を知らせていなかったため、彼女は撮影中に実際のプロセスを体験することになったのだそう。大雨の場面では、役に入り込んでいたウー・レイが撮影後1時間ほど泣き続けていたという話も。「2人は僕を信頼してくれて、自分の心をオープンにしてくれました。なので受けた傷は大変なものだったと思います」と深い感謝と労いを込めてコメントした。 終盤のシーンの撮影も過酷を極めたと言い、ウー・レイは「今生の中で一番暗かった時間だった」とグー・シャオガンに語ったとか。数多くの裏話を明かしたうえでグー・シャオガンは「撮影の中で、魂を差し出す、魂を交換するということがよくわかったんです。大雨のシーンの一瞬は、役者たちの力がすべてでした」「ジアン・チンチンさんとウー・レイさんはあのとき、タイホアとムーリエンを演じていたわけではなく、かといって彼ら自身だったわけでもない。多くの母子の情感、魂が彼らの上に降臨して演技ができたのだと思う」と述懐した。 ■ 神と悪魔が自分探しをする物語 最後は観客からの質問に答えるコーナーも。「山水映画はどんなテーマと結び付くのか」という問いにグー・シャオガンは「“澄懐観道”という四字熟語が山水映画のテーマ。心を澄ませて道を見るということ」「ホウ・シャオシェン監督や小津安二郎監督の作品がどうしてあんなに素晴らしいかというと、そこに彼らの人間世界に対する愛や、彼らの見方があるからだと思います」と語り、「前作は循環・輪廻の物語でした。今回はいかにして人間が本来の自分に戻ってこれるかを主題にしています」と答える。そして「天国と地獄、人間の心にある神と悪魔の部分を違った撮影形式で表現しました。マルチ詐欺の場面は山水映画の言語として、客観的に撮ることもできました。ただ今回はジャンルとしての山水映画を探求したかったので、もっと入り込んだ視点で撮ることにしたんです。風景を映すときは神のような視点で、マルチ詐欺の部分は入り込んだまなざしで地獄を描きました」と続けた。 またタイホアが茶摘みで家計を支える設定にした理由を尋ねられると「この話は『目連救母』という仏教故事をもとにしていて、それを現代的に翻訳する際に茶がすごく大切な道具になった」「茶は禅と深く通じる。ムーリエンは神的なもので、タイホアは悪魔のようなもの。神と悪魔が自分探しをするんですね」と説明する。 グー・シャオガンは次回の山水映画についても語り、「家族とラブストーリーの要素を入れた作品になると思います。特にラブストーリーの部分が強くなるかと。今までとは違い、撮影のスタイルを決めてから脚本を書いています。できるだけ早く皆さんのお目に掛けられるようにしたいです」と言って、1時間半近くに及ぶ充実したトークショーを締めた。 「西湖畔に生きる」は9月27日より、東京・新宿シネマカリテ、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で順次公開。ムヴィオラ、面白映画が配給を担当する。 (c)2023 Hangzhou Enlightenment Films All Rights Reserved.