「推しの子」を超す勢いで海外のファンが急増中…日本の高校を舞台にした異色の「ラノベ発アニメ」とは
■ロマンスがすぐに発展しないのがいい 『負けイン』に対するMALの評価は、「Nukumizu(主人公)とAnna(ヒロイン)はMakeinu(負け犬)同士の最高の関係性である」「ロマンスが非常にリアル。一目ぼれはない、内なる会話で『うわー好き!』みたいに声高に叫ぶのでもなく、愛が絶妙に時間をかけながら発展する。それゆえに非常にリアルで非常に興味深い」「この12週間はA-1ピクチャーズによるノンストップの魔法の連続、ロマンチックコメディの新鮮な解釈あった」、といったコメントが並ぶ。ちなみに、Makeinuは新しい英語になった。 『ロシデレ』も『負けイン』も「ロマンスがすぐに発展しない」点がむしろ高評価をあげている。 ツンデレ、ブラコン、残念、ハーレムなど20年ほどかけてパターン芸となりつつある日本の学園ラブコメアニメにも「誰しも必ずしもほしいものが手に入るわけではない」というリアリティを求める。 そして、箱庭のような空間で一面的でないキャラクター性と多様な関係性を見て、それを一つ一つ解きほぐすように視聴するユーザーが海外にも多数存在するのだ。 お互いを潜在的な恋愛対象として見ていないということが視聴者にも安心を生み出すことは「温水と女の子たちとの関係がすべてプラトニックだったのが気に入った」というMALのコメントからも見てとれる。 MALで一番ファン数が多いのはアメリカ人だが、彼らはなんでもかんでもダイナミックな恋愛ストーリーやフィジカルな駆け引きを好むわけではない。 ■アニメとしての美しさはヒットの必須条件 以前『好きめが(好きな子がめがねを忘れた)』が人気であることを伝えたようにゼロ距離で繊細な機微を描写する日本アニメの学校モノの恋愛は、海外ファンにとっても今鉄板化しているジャンルなのだ。 最後に5位の『杖と剣のウィストリア』にも言及したい。王道の「魔法と剣のファンタジー」であり、転生モノでもラブコメでもなく、シリアスな作品である。 主人公は『マッシュル』さながら、魔法は使えないのに強靭な“戦士力”を発揮する。『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』でなろう系作家として一世を風靡した大森藤ノの原作で、2020年末からの別冊少年マガジン連載で10巻累計150万部、他のトップ漫画作品と比べると必ずしも「アニメ化確実な売れ行き!」とは言い難い。 だが評価Scoreも7.9とかなり高く、初動4万から放映後18万と4倍強にまでMembersが増えた。日本ではだんだん少なくなってきたシリアスな王道ファンタジーモノだが「特に独創的なストーリーではないがアニメの品質はストーリーテリングと同じくらい重要だ。芸術的には今年最高の作品」とアニメの質自体が作品人気を底上げしているようにも見える。 『しかのこ』もギャグ部分を除けば、美しいキャラクターデザインをしている。全般的に海外上位アニメはキャラクター性やストーリーの面白さだけでなく「アニメとしての美しさ」でアート的に圧倒して人気上位になるケースも多く、原画のイラスト性の高さなども今後注目すべきポイントだろう。 ---------- 中山 淳雄(なかやま・あつお) エンタメ社会学者、Re entertainment社長 1980年栃木県生まれ。東京大学大学院修了(社会学専攻)。カナダのMcGill大学MBA修了。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイトトーマツコンサルティングを経て、バンダイナムコスタジオでカナダ、マレーシアにてゲーム開発会社・アート会社を新規設立。2016年からブシロードインターナショナル社長としてシンガポールに駐在。2021年7月にエンタメの経済圏創出と再現性を追求する株式会社Re entertainmentを設立し、大学での研究と経営コンサルティングを行っている。著書に『エンタの巨匠』『推しエコノミー』『オタク経済圏創世記』(すべて日経BP)など。 ----------
エンタメ社会学者、Re entertainment社長 中山 淳雄