‘25年も続くか…斎藤知事&立花孝志氏が兵庫県知事選で露わにした”SNS選挙”時代の「危険性」
流れを変えた立花孝志氏の立候補
’24年、最も注目を浴びた人物のひとりといえば、斎藤元彦兵庫県知事だろう。 昨年7月に自殺した元県民局長から、3月に兵庫県警、報道機関4社、国会議員1名、県議4名の合わせて10の外部機関に『斎藤元彦兵庫県知事の違法行為等について』と題する告発文書が匿名で送付されたことに端を発する。 【写真あり】立花孝志氏 青山のクラブで美女に囲まれウハウハの夜 そして、斎藤氏は記者会見を開き、 「不満があるからといって、業務時間中に“嘘八百”含めて、文書を作って流す行為は公務員失格です」 と厳しい言葉で糾弾したことで、この問題が表面化。世間の注目を浴び始めた。 さらに、告発した県民局長が 「一死をもって抗議する」 との言葉を残して自死したことで、報道も熱を帯び、大きな騒動に発展していった。その後立ち上げられた『文書問題調査特別委員会(百条委員会)』で調査はまだ続いている状態だ。 ところが百条委員会で調査結果が出る前の同年9月19日、兵庫県議会に提出された斎藤知事不信任決議案は、全会一致で可決された。斎藤氏は県議会を解散せず、知事を失職し、その後行われる出直し選挙へ立候補を正式表明した。 県知事選では、『NHKから国民を守る党』党首・立花孝志氏がいきなり知事選に立候補。ところが氏自身が兵庫県知事になる意思はなく、目的は斎藤氏の援護射撃だった。 斎藤氏を援護するには“知事は何も悪くなかった”と有権者に刷り込むのが最良の方法と見たのか。《パワハラはなかった》に始まり、元県民局長の自死は斎藤氏に関係なく、不倫を暴露されるのを恐れてだと歪曲するために、元県民局長が《10年で10人と不倫》や《不同意性交》などという不確かな情報を拡散した。 立花氏は元県民局長のパソコンの中にその証拠が残っていて、自分は証拠を掴んだとしていたが、早い段階で“10年で10人”は根拠が 「めちゃめちゃ薄い」 と本人も認めている。 ◆7人については絶対間違いないとまでは言えない 結局、“10人”は嘘だったとなったが、今度は“7人”と主張。しかもそのうち6人については情報が得られていないとしていたが、最近はまた、“7人”と叫んでいる。 だが、直近に更新された自身のYouTubeでは、少し揺らぎ始めているようだ。昨年12月29日に配信された自身の動画ではこう語っている。 「私も今現在も7人という数を最終確定として言っていますが、ここはこの7人については絶対間違いないとまでは言えないです」 とだいぶトーンダウンしている。さらに、 「仮に不倫がなかったとしましょう。県民局長の不倫がなかったとしたときに、じゃあなぜ県民局長は自ら命を絶たなければいけなかったんでしょうか。それは、なんか悪いことをしてたと考えるのが筋じゃないんでしょうか」 とし、内部告発をするような人間は肝が据わっているから、3ヵ月の停職と言われただけで落ち込むわけがない、とまで言いきっている。 前提条件となるものが立花氏の論理であって、誰にでも当てはまるとは限らないし、元県民局長は、3ヵ月の停職となっただけではなく、退職を許されず、決まっていた再就職が取り消されている。失望落胆する要因としてはそちらのほうが大きいのではないか。 それにしても、立花氏に便乗し、学者や有識者までが自分でウラ取りもせずにこの“デマ”を広げていったのには呆れてしまった。 特に経済学者の高橋洋一氏は同年11月8日に配信された『真相深入り!虎ノ門ニュース』の中で、元県民局長の公用パソコンの中身について、立花氏が政見放送で語る前から知っていたと明かしている。 たまたまネットを見ていたら、件の公用パソコンの中身が漏洩されていて、スクリーンショットで撮って、それを総務省の結構えらい人に見せたら、自分の印象では図星だったと語っている。 「おい、おい、なんだそれ」 とツッコミを入れた人は多いだろう。中身を知っていたにもかかわらず、のちにデマとわかる“10年で10人”を否定しなかったのは、なぜなのだ? 立花氏だけではない、ネットでデマを流す人たちが主張する“根拠”や“証拠”は 「~と、言っている人がいる」 「誰々から聞いた」 という伝聞がほとんどだ。証拠を掴んでいるとしていたが、立花氏が元県民局長の公用パソコンの中身を見るまでは、『10年で10人』も誰かから聞いた話だとしていた。その人物が立花氏に不確かな情報を伝えたのだろう。 ◆『SNS劇場型選挙』といわれた兵庫県知事選 そもそも、公益通報者が不倫してようがしていまいが、何の関係があるのか。立花氏の論理では、“不倫しているような人間の言うことは信用できない”ということらしいが、’22年11月10日にツイッター(現X)に、 《私もNHK職員時代に不倫していました。某アナウンサーの元奥様と》 と投稿している。立花氏の理屈でいえば、彼自身も信用できない人物だ。 また、国民民主党の玉木雄一郎代表の不倫が発覚した時、昨年11月11日のXでは 《不倫している人は、能力が高く、己の恋愛感情に素直に従っている、正直な人なのです! そして、罪悪感があるから、配偶者を大切にするのです! 不倫は神様が作った自然の摂理!》 などと不倫を肯定しているではないか。 ならば、元県民局長は能力が高く正直な人となる。いやはや、なんともだ。 しかし、立花氏らの情報に踊らされた兵庫県民は多かった。ちょっと調べればわかることなのだが、彼らはSNSの情報を鵜呑みにし、疑うことがなかった。結果、斎藤氏は知事に返り咲く。 「これは民意だから」 という声を多く聞くが、民意が必ずしも正しいとは限らないし、今回は民意がゆがめられたのは確かだ。百条委員会の調査はまだ続いており、斎藤氏については新たに公職選挙法違反の疑いも生じてきている。決着は今年に持ち越された形だ。 『SNS劇場型選挙』などと評された兵庫県知事選挙だったが、“デマゴーグ選挙”と言っていいほどSNSのデマに振り回された選挙だった。一部では史上最悪の選挙ともいわれている。 さらにSNSでは、“偏向報道”“嘘が多い”“情報を隠している”等々、オールドメディアが非難され、“ネットに真実がある”と叫ばれることに。 だが、何度も言うが、オールドメディアは情報を入手しても、そのまま垂れ流すことはない。必ず取材して、“ウラを取る”作業を怠らない。ウラが取れなければ報道することはない。もちろん誤報はある。 しかしその場合、そのままということはない。必ず訂正し謝罪する。責任の所在がハッキリしているからだ。それがSNSとの大きな違いだ。 年を越した“斎藤元彦問題”。《最後に愛は勝つ》ではないが、最終的に『正義』が勝ってもらいたい……。 文:佐々木博之(芸能ジャーナリスト)
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