「淘汰されて数が減るだろう」…ホンダと日産の経営統合交渉、サプライヤーに広がる不安と期待
ホンダと日産自動車の経営統合交渉入りをめぐり、サプライヤーの間では期待と不安の両方の反応が広がっている。取引先拡大など新たな事業機会の獲得につながる可能性がある半面、調達先の絞り込みへの危機感は強い。一方、専門家からは次世代の電動化・知能化領域だけでなく、足元で需要が好調なハイブリッド車(HV)の拡販、投資負担軽減を期待する声も上がる。 【一覧表】ホンダと日産の国内取引企業数 「サプライヤーは淘汰(とうた)されて数が減るだろう。これまで完成車メーカーの拠点進出に追随してきたが、統合で拠点が増えれば投資もかさむ」。ホンダとの取引が多いサプライヤーの幹部は日産との経営統合が実現した場合の影響をこう懸念する。その上で「自社の既存拠点をうまく活用できるか。良くも悪くも効率が大事になる」と指摘する。 東京商工リサーチの調べによると、1次・2次の取引企業はホンダグループが1万5242社、日産グループ(三菱自動車含む)が1万3283社に上る。統合交渉の行方は当事者であるホンダ・日産のみならず、サプライヤーの経営も左右する。「経営統合が実現し(部品の仕様などが)共通化されれば、当社の生産性も上がる。原価が下げられ顧客にも安価に供給できる」(サプライヤー幹部)とプラスの効果に期待する声もある。 電動化・知能化対応には巨額の投資が必要だが、足元では利益の源泉となる既存事業の競争力強化は不可欠だ。経営学などが専門の早稲田大学の長内厚教授は「(電動化など)技術の過渡期では早過ぎる技術移行は収益性が悪化する。既存事業を大切にしながら新事業をやっていくのが重要」と指摘する。 世界的に電気自動車(EV)シフトが想定より遅れ、HVなどの需要は好調だ。日産は主力の北米市場でHVをそろえられず収益悪化を招いた。ホンダは独自のHVの販売を伸ばし、次世代システムの開発を推進する。ホンダのHVを日産に供与できれば商品構成を拡充できる日産だけでなく、拡販で投資を効率化できるホンダにとってもメリットは大きい。 カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向け、ホンダは40年にEV・燃料電池車(FCV)販売比率100%を掲げる。EVの事業基盤構築を急速に進める半面、HVなど内燃機関(ICE)車への投資は負担も大きい。電動化が遅れ「トランプ2・0(第2次トランプ米政権)」が始動する中、EVへの移行は長期化するもようだ。 ナカニシ自動車産業リサーチ(東京都港区)の中西孝樹代表アナリストは「環境対応戦略の変更が余儀なくされている。EVとICEなど多層的なアプローチは2重投資と経営効率の悪化を招いている。経営効率の確立が(統合交渉に)ホンダを突き動かしている」と指摘している。 一方、統合による電動車戦略の修正はサプライヤーにも影響する。両社が公表済みの電動化戦略にどこまで手が加わるのか。サプライヤーは固唾(かたず)をのんで交渉の行方を注視している。