フルタイムのワーママが副業漫画家に!スタートからわずか4年で2冊の書籍を出版
2024年に「貯金オタク、5000円の石けんで目覚める。」「マンガでカンタン!配色の基本は7日間でわかります。」と、2冊の書籍を出版した小日向えぴこさん。育休中に漫画を描き始めたことがきっかけでライフシフトした小日向さんにインタビュー。 【もっと写真を見る】
育休中に自身の子どものことを漫画にしてSNSへ投稿したことで大きな反響があり、わずか4年後の2024年9月には初の書籍を出版することになった小日向えぴこさん。現在、WEBでの漫画連載に加え、企業からの依頼による漫画制作、さらには同年12月に2冊目の書籍発売と大活躍だが、実は漫画家という仕事は副業。本業を別に持つ彼女が、どうして副業漫画家という道を選んだのか、また、どのようにして書籍出版にいたったのかなどを聞いてみた。 SNSの子育て漫画が人気に! 会社に許可を得て漫画家として副業をスタート 副業漫画家として活動している小日向さんだが、本業は保険会社に勤める会社員だ。生命保険の営業、海外事業を担当する部署を経て、現在はウェブマーケティングの部署で働いている。 「最初は公務員を目指していたんですが、第一志望のところに落ちてしまい、民間の就職を始めました。それが大学4年の夏で、周りのみんながもう就職先を決めている時期だったのでかなりしんどかったですね。とはいえ、特にできることもやりたいこともなかったので、手当たり次第いろいろな会社に応募。今の会社に就職した決め手は、一番最初に内定が出たことです(笑)。入社したものの、営業は自分には向いていなかったので辞めようと思ったのですが、3年目で本社内勤への異動がかなって、それからはずっと本社で働いています」 そして、27歳で結婚した小日向さんは2020年6月に第一子を出産。「物心ついたころから絵を描くのが好きだった」という彼女にとって、これが副業漫画家となるきっかけとなった。 「小学生のころに漫画を描き始め、漫画家になりたいと思って1回だけ賞に応募したこともあったんです。そこで、育休中に子どもの漫画をSNSで投稿し始めたところ、たくさんの方に見てもらえるようになりました」 SNSで大きな反響を得たことで、個人からの似顔絵の依頼や企業からの漫画の依頼が小日向さんのもとへ。勤務先が副業を認めていたため、これを機に本格的に漫画を描いていくことにした。 「漫画家が副業として成立するならやってみようかな、とかなり軽い気持ちで始めました(笑)。副業の内容は、上司や業務上関わりのある人には伝えていて、みなさん、温かく応援してくれています。私の出した書籍を買って感想をくれる方もいて、本当にありがたい限りです」 副業を始めることにした小日向さんはまず、クラウドソーシングのサイトに登録。仕事が落ち着いている時はSNSでの依頼も受けるなど、小さな案件でもコツコツと積み重ねて実績をつくっていった。最初はあまり依頼がなかったというが、半年を過ぎたあたりから、少しずつ大きな案件が舞い込んでくるようになる。そんな中、マンガのスキルをブラッシュアップすべく、はちみつコミックエッセイ主催の「コミックエッセイ描き方講座」にも応募。これが初書籍の出版へとつながった。 「少人数でコミックエッセイの描き方を学び、最後に卒業制作として12ページのコミックエッセイを描くという講座です。講座が終わった直後、編集長から直々にお声掛けをいただいて、書籍化に向けて動き出すこととなりました」 208ページ全編描き下ろしとなった書籍「貯金オタク、5000円の石けんで目覚める。」は、小日向さん自身のお金にまつわる経験をもとにしたコミックエッセイだ。 制作にあたっては読者に「読んでよかった」「得した」と思ってもらえるよう、漫画本編の内容を役に立つものにすることを心掛けたという。 「特にこだわったのがコラムページです。貯金の基本、節約の味方の食材リスト、買ってよかったアイテム、我が家の家計簿、実際のライフプラン、やりたいことリストと、読み応えのあるコラムが満載。最後まで内容を詰めたり、何度も何度も修正したりと大変でしたが、納得のいくものになったと思いますので、ぜひご覧いただきたいです」 「最初はとにかく、無事に出せてよかったという気持ちが一番強かったです(笑)。少しすると、周りの人やSNSのフォロワーさんだけじゃなく、見ず知らずの方も感想を寄せてくれるように。私を応援してくれている人や作品を手に取ってくれる人がいることを実感して、すごくうれしかったです。『考え方が変わりました』『今これを読めてよかった!』『早速こんなことをしました』といった感想をいただいて。私の作品が、読んでくれた方の人生に少しでも影響を与えられるなんて、けっこうすごいことなんじゃないの、と思ったりしました」 会社で得られる経験は捨てがたいから、〝本業メイン+漫画は副業〟を貫きたい 「貯金オタク、5000円の石けんで目覚める。」に加え、2024年12月には2冊目となる書籍を出版。この年はほとんど書籍の制作にかかりきだったという小日向さん。順調に漫画家としてのキャリアを積んでいるが、副業開始当初は仕事の内容と依頼料とのバランスを掴むのに苦労したとか。 「制作時間を見誤ったり、修正などで想定よりも時間がかかって、見込んでいた単価を大幅に割ってしまったりということも度々。そもそも、初めのうちは依頼料を低めに設定しないと、なかなか発注いただけないというのもありますしね。ですので、数をこなしながら、自分の今のリソース・修正も含めた制作時間を踏まえて、適切な依頼料になるように調整していきました。また、複数案件を引き受け過ぎてキャパオーバーになってしまったことも。依頼を受ける条件を明確にすること、自分のリソースを過信しないこと、ギリギリのスケジュールを組まないことなどを、その失敗から学びました。でも未だに仕事を受けすぎてしまうことがあるので、修行中です(笑)」 本業に副業にと、日々大忙しの小日向さんに、どのように仕事を進めているかも聞いてみた。 「平日は、子どもを保育園に送ってから9~18時は本業の仕事。子どもが寝て家のことが終わった夜の時間、だいたい21時ごろから副業をしていますね。切羽詰まっている時期は、休日に作業を充てることも。保育園の土曜保育を活用したり、ベビーシッターさんや母に来てもらったりしています。時間のやりくりで大変なのは、本業が忙しい日の夕方のオペレーションです。18時にいったん仕事を中断して子どもを迎えに行き、帰ってきてから夫にバトンタッチして本業の仕事の続きをします。夫が簡単なご飯を作って、また仕事を中断して夜ご飯を食べ、仕事に戻る、という感じに。夫なしでは回っていません(笑)」 怒涛のような毎日を送っていても、そして漫画家の仕事が軌道に乗っていても、小日向さんは現在、副業を本業にすることは考えていない。 「理由はいくつかありますが、まず、本業をやめると経験の幅が狭くなってしまうから。会社では個人ではできないようなプロジェクトに関わらせてもらっているので、そこで得られる経験は捨てがたいです。会社での経験が漫画の仕事で生きることも結構多いんですよ。また、本業と副業があることで心の拠り所が増えるし、自分の居場所は一つでも多い方がいいと思ってます。それに、私は自分を律するのがすごく苦手なので、副業を本業にしても自分から仕事を取りに行ったり、しっかり集中して仕事したりというのができなそう(笑)」 そんな理由から「本業で〝半ば強制的に仕事をしなければならない〟くらいがちょうどいい」と語る小日向さん。加えて現実的な問題として、金銭面も重要だという。 「漫画やイラストで会社員並みに稼ぐことは相当難しいですし、個人事業主は会社員に比べると社会保障がかなり手薄。子どもの教育費とか、将来のことを考えたら安定収入があった方がいいと私は考えています。一方、本業を時短にと考えたことはあったのですが、結局やめました。今の仕事は楽しいですし、任された仕事はしっかりやりたいと思っていて。多分時短にしたらできることは減るし、あまり責任のある仕事は任せてもらえないと思います。どちらも中途半端にやるよりは、当面は本業をメインにしっかり働いて、ベストを尽くしたいですね」 副業で漫画家を始めたことで、人生が変わった小日向さんに次なるライフシフトや10年後の目標などは定めているのだろうか。その問いに「あまり先のことを考えるのは得意じゃなくて、10年後のビジョンは明確には描けていない」「〝本業メイン+漫画は副業〟というスタイルを大きく変えることは考えていない」という前提で、こう答えてくれた。 「強いて言えば、今はイラストやデザインのスキルがあまりないので、一度ちゃんと学んでみたいですね。そうすれば本業で今やっている仕事でも、副業の仕事でも生かすことができそうだなと。今まで結構、〝思いつきや目の前のやりたいことに取り組んでいったらいつの間にかこうなっていた〟という感じの人生だったので、また思いつきで全く別のことを始めたりするかもしれません(笑)」 インタビューの締めくくりとして、これからライフシフトや新しいチャレンジをしたいと思っている女性にアドバイスをもらった。 「アドバイスと言うとおこがましいのですがもし新しくチャレンジしたいことがあるなら、あまり難しく考えずに始めてみて欲しいなと思います! 今は、ほぼノーリスクでいろいろなことができる時代です。わからないことがあっても調べればすぐ情報が得られますし、試しにちょっとやってみて、『向いてないな』『楽しくないな』となったら、またそこからどうしていくか考えればいいと思います。方向性を変えるなり、辞めるなり。人生の中で自由に使える時間って、思っているよりも短いんですよね。私個人の経験から言うと、あんまり深く考えすぎずに、やりたいことをやってみるのもいいんじゃないでしょうか。私は、新しいチャレンジはたとえ失敗しても、必ず自分の糧になると思っています」 文● 杉山幸恵