自民党新総裁に石破氏が選出:地方創生を中核に据えた成長戦略の推進に期待:財政・金融政策の正常化も後押しか
財政健全化の重要性
日本銀行が金融政策の正常化に踏み出す中、財政政策の正常化の動きは明確でない。財政環境悪化、政府債務の増加は、将来世代の負担の増加をもたらし、企業の先行きの成長期待を下げてしまうという弊害を生むだろう。 財政再建を短期的に実現することは難しいが、まずそうした方向性を確認し、自民党内で共有することが重要だろう。また財政再建が後戻りしないような制度、法律などの仕組みを作ることも検討されるべきだろう。さらに、経済の成長力を高めるように政府支出の中身を吟味する「ワイズスペンディング(賢い支出)」の考え方は、成長力向上にも資するものであり、それは税収増加を通じて財政健全化にも貢献することが期待されるところだ。 既に見たように、石破氏は財政健全化の方針を打ち出している。総裁選では、財政支出を拡大させることで、成長率が高まれば、税収も増加するため、増税を実施することなく財政再建が進むといった楽観論も出されたが、過去にはそのような議論が続けられる中、財政環境は一方的に悪化を続けてきたという事実を重く受け止める必要がある。財政再建は、歳出抑制、増収、成長力強化の3点をバランスよく進めることで実現を図るべきだ。
成長戦略の更なる推進に期待
石破政権の経済政策では、アベノミクスの第3の矢に相当する、企業の投資を引き出すような成長戦略の推進を最も期待したい。それこそが、労働生産性の上昇、実質賃金の上昇を通じて、国民生活の改善につながるのである。 石破氏は、地域創生、地方経済の活性化を長らく掲げており、それが石破政権の成長戦略の中核となるのではないか。 石破氏が9月10日に公約を発表した際には、冒頭で「地方における可能性を最大限に引き出していく。もう一度、地方創生の原点に立ち返る」と決意を語った。また別の場では、「いつの時代も国を変え、歴史を変えるのは地方であり、庶民、大衆だ。地方には大きな可能性がある」と地方の重要性を改めて熱く語っている。 石破氏は、「地方創生2.0」構想を掲げる。次世代インターネット技術「Web3.0」を活用して地域間の情報格差をなくし、地方への企業進出を後押しする。デジタルと地方創生の組み合わせで、東京一極集中の是正を実現する構想だという。 石破氏は、「農業、漁業、林業、サービス業に活性化を促し、雇用と所得を創出することが肝要だ」とも強調している。また、地方の人口減対策として婚姻率を上げる重要性を指摘する。地方に、結婚適齢期の女性が男性よりも少ない点を問題とし、「若い女性に選ばれる地方とは何かということに絞ったプロジェクトの展開を図りたい」と女性目線で地方創生を語るという独創性を持っている。 石破氏は、地域経済活性化、少子化対策、東京一極集中是正という3つの成長戦略を統合したパッケージの構想を抱いているようにも見える。つまり、「地方創生2.0」、「農業、漁業、林業、サービス業活性化」を通じて地域経済を活性化し、若い女性に選ばれる地方を作る。それによって、若い女性が東京に流れずに地方に残るようにし、地方主導で出生率を高めるといった姿だ。こうした施策は歓迎するところであり、今後もさらなる具体策の肉付けに期待したい。 他方で、石破政権には岸田政権の成長戦略も是非引き継いでほしい。それらは、「資産運用立国実現プラン」を通じ「貯蓄から投資へ」の流れを加速すること、「三位一体の労働市場改革」で、労働生産性向上と産業構造の高度化を実現すること、「外国人材確保(外国人実習制度改革と特定技能制度拡充)」を進め、労働供給と需要創出を促すこと、「インバウンド戦略」でインバウンド需要を地方に呼び込むこと、などである。 また石破政権の経済政策には、小泉氏のグループも影響力を与える可能性があるだろう。総裁選で「聖域なき規制改革」を掲げた小泉氏が、ライドシェアの全面解禁などの推進で石破氏の規制改革を一層促し、経済政策全体の厚みを増すことにも大いに期待したい。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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