「マネージャーだけど主将」“鎮西の3番”への憧れを封印した最後の春高バレー…全国制覇の夢散るも「畑野先生の隣でたくさん学べた」
キャプテンだけどコートには立てない
鎮西のキャプテンになる――光栄なことだとわかっていても、最初は受け入れるのが難しかった。香本が当時の心情を明かす。 「選手として諦めなきゃいけない、ユニフォームを着て3番をつけることも諦めなきゃいけない。わかっているんですけど、でも(最後の1年は)諦めたくない自分もいたんです。だけど、任されたからには自分の仕事を全うしなきゃいけない。この仕事を全力でやらないといけん、と思ってやってきました」 ゲーム形式の練習時には、アタッカー陣のスパイクが決まった本数、ミスの本数を常にメモを取りながら選手に声をかける。試合時にはタイムアウトの際や試合直後に監督やコーチの話を受けて、選手同士の会話の中心に立つ。特に今季のチームは主軸を下級生が担うため、コートに立つ3年生はゲームキャプテンを務めるリベロの栗原とミドルブロッカーの池松青汰しかおらず、香本が果たす役割は大きい。 香本が特に気にかけ、声をかけてきたのが2年生エースの岩下だった。 昨季も春高バレーのセンターコートを経験し、今夏のインターハイでもベスト4に貢献。大舞台の経験は積んできたが、香本曰く「メンタルが強いタイプではない」。岩下も自覚していたからこそ「自分の悪いところを教えてほしい」と香本に伝えていた。 「自分の調子がよくない時、フェイントで逃げたり、打った後もすぐに下がらず他の人に任せようとすると、夏輝さんからすぐ『今のは打てよ』とか『下がってお前がトスを呼べ』と言われるんです。でも本当に言われる通りだと思うし、いい時は『今のよかったな』と褒めてくれる。アメとムチじゃないですけど、引き締める時は引き締めてくれるし、すごく面倒見がいい。僕にとってもチームにとっても、かけがえのない存在です」
「お前は責任者だ」「香本しかいない」
香本に言わせれば「岩下が自分のやるべきことを教えてくれた」と感謝の言葉に変わる。その人間力こそ、マネージャーでありながらキャプテンを託された理由だ。超高校級と称されるエースもいる中で、畑野監督は香本を賞賛する。 「うちの選手たちはみんな真面目ですけど、一番真面目で人間ができているのが香本。だからキャプテンにしました。でも試合に出ないのにキャプテンを背負うのはしんどいだろうから、お前は『責任者』だと。香本の他に、それができる選手はいないでしょうね」 自分よりも常に周囲を気遣い、弱音を吐かずに役割を全うする。そんな香本でも、3年間を振り返る言葉の中には時折、一人の選手として、鎮西の主将としての悔しさもにじませることがあった。 「試合や練習を見ていると、やっぱり自分もこのコートに立ってプレーしたい。キャプテンなのに何で3番を着られないんだろう、って思うこともあるんです。でも、だけどそこはぐっと堪えて。自分に今できることは何なのか、自分で見つけてやっていこう、と自分に言い聞かせて、頑張っています」 その思いを誰より知るのが栗原だ。 小学生の頃から対戦してきた間柄で、セッターとしての能力も知っている。だからこそ、最後の春高には特別な思いがあった。 「(香本は)試合に出ていたら間違いなく鎮西の3番をつける存在。でも身長とか、いろんな厳しさや悔しさを受け止めてマネージャーとして、折れずに誰より声を出してチームを支えてくれている。そういう姿をずっと見てきたから、香本のために頑張りたいし、香本のために優勝したいです」 その夢は、準々決勝で途絶えた。 最後まで仲間を労った香本を、「彼が一番悔しかったんじゃないか」と畑野監督が労う。その言葉を香本に伝えると、笑顔が崩れ、涙が溢れた。 「あの時自分がもっと声をかけられたんじゃないか、キャプテンとしてできる仕事があったんじゃないか。考えればいっぱい出てくる。悔しいです」 中学生の頃に憧れた鎮西のユニフォームにも、日本一にも届かなかった。けれど“責任者”という誰もやったことのない、おそらくできないポジションをやりきったから、得られたものもある、と笑う。 「畑野先生の隣に座って、いろんな話をして、いろんなことを教えてもらった。これからバレーをするだけでなく、生きていくうえで大切なことをたくさん学ぶことができました」 香本の、今季の鎮西の春高は終わったが、人生は続き、また新しい挑戦も続く。 この悔しさもきっと、次への糧になる。香本の、強く、たくましい笑顔のように。
(「バレーボールPRESS」田中夕子 = 文)
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