3歳で旅立った妹の名、グラブに刻み 山梨学院・鈴木 選抜高校野球
第94回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)第3日の21日、第1試合で木更津総合(千葉)と対戦した山梨学院の鈴木斗偉(とうい)選手(3年)は、幼い頃に亡くした妹と共に阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)のグラウンドに立った。二塁を守るグラブには、わずか3歳で生涯を閉じた湖々(ここ)さんの名が、涼やかな青い色の刺しゅうで刻まれていた。 2歳下の妹は先天性の心臓病を抱え、大半の時間を病院で過ごした。妹が生まれたことがうれしくて、ほとんど声が出せない中でも「ママ」と呼んだ声の録音を大切にした。2009年5月に亡くなる直前、横浜の自宅に帰ってきた妹を姉の陽菜さん(20)と一緒に風呂に入れ、体と髪を拭いてあげた。 その年の秋、落ち込んだままの息子を元気づけようとする父健太郎さん(46)に連れられ、横浜スタジアムで初めてプロ野球の試合を観戦した。選手たちのプレーに、スタンドを満員にした観客たちが興奮し、盛り上がる様子に圧倒された。その帰り道、「野球をやりたい」と父に話し、小学校入学と同時に地元の少年野球チームに入った。 俊足、巧打で頭角を現す。プロ野球選手を夢見るようになった。中学時代の指導者の勧めで山梨学院に進むことになり、親元を離れた。それと同時に、「自分にとって一番頑張れる言葉だから」と、グラブに妹の名前を刺しゅうした。 試合で最初の打席に立つ前、ネクストバッターズサークルで手のひらに指で「湖々」の文字をなぞる。それだけで「気持ちが入る」という。一緒に過ごした時間は短かったが、妹の存在が野球を始めるきっかけとなり、今も支えになっている。「妹の分まで頑張るという思いが背中を押している」と健太郎さんも話す。 昨秋の関東大会後、センバツ大会に向けて新調したグラブにも「湖々」と刺しゅうした。この日の甲子園の舞台では初打席で安打を放ち、守備でも強い打球を落ち着いて処理するなど、接戦に貢献した。「すごく楽しい舞台だった。次は勝ち上がれるように」。夏にまた、妹と一緒に甲子園に帰ってくるつもりだ。【田中綾乃】 ◇全31試合をライブ中継 公式サイト「センバツLIVE!」(https://mainichi.jp/koshien/senbatsu/2022)では大会期間中、全31試合を動画中継します。また、「スポーツナビ」(https://baseball.yahoo.co.jp/hsb_spring/)でも展開します。