スペインとフランスの“決定的な違い”は「戦術的な攻略手段を持っていたかどうか」決勝は2つの潮流/スタイルを代表する“ラスボス対決”に【EURO2024コラム】
スペインとフランスの差はどこから生まれたのか
EURO2024準々決勝のスペイン対ドイツに続き、再び「事実上の決勝戦」と呼ばれた準決勝スペイン対フランスは、序盤に先制を許しながら21分、25分のゴールで逆転に成功したスペインが、残る1時間あまりを落ち着いてコントロールし、フランスに攻勢を許さずリードを守り切った。 【動画】EURO2024準決勝、スペイン対フランスのハイライト! 客観的なデータから見れば、内容はほぼ互角と言っていい。シュート数はスペインの6に対してフランスは9(枠内シュートは2対3)。ゴール期待値はスペイン0.75に対してフランスは1.10とむしろ上回っている。 スペインが作り出した決定機らしい決定機は、前半5分、ラミネ・ヤマルの右からのクロスにファーサイドで合わせたファビアン・ルイスのヘディングシュートのみ。フランスは受動的に守りながらも最後の一線は堅固だった。しかしスペインはヤマルとダニ・オルモが個のクオリティーを発揮して決めた難易度の高い2ゴールで勝負を決めた。 他方フランスは、53分と63分にCKから、76分にはテオ・エルナンデズ、86分にはキリアン・エムバペがそれぞれエリア内の好位置から決定機を手にしている。このいずれかが決まっていれば、試合はまた違う展開、違う結末になっていたかもしれない。 結果的に勝敗を分ける直接的な要因となったのは、両チームが前線に擁するタレントが違いを作り出したかどうかの差、ということになるのかもしれない。強豪同士の均衡した戦いにおいては、しばしば個のクオリティーが試合を決定づけるものだ。 しかし総合的に見れば、立ち上がりの10分を除き、スペインが主導権を握って最後まで試合をコントロールし切った印象が強い。ボール支配率は58対42(前半は55:45、後半は60:40)と、試合を通してスペインが優勢だった。 もちろん、ボール支配率と試合結果に直接的な関連性はない。しかしこの試合に話を限れば、スペインは自らの大きな強みである「ボール支配によるゲームコントロール」を前面に打ち出してフランスを封じ込めつつ、ヤマル、ダニ・オルモ、ニコ・ウィリアムスというタレントが個のクオリティーを発揮しやすい状況を作り出すことに成功している。 一方のフランスは、上で見た4つの決定機(うち2つはセットプレー)を除くと、スペインのコンパクトな4ー4ー2を攻略することも、スペインのビルドアップとポゼッションをプレスによって分断して敵陣でボールを奪い、そこから速攻を仕掛けることもできなかった。エムバペ、ウスマンヌ・デンベレ、ランダル・コロ・ミュアニら攻撃陣のクオリティーを存分に引き出すためのお膳立てを用意できなかった、という言い方もできるだろう。 では、この両者の差はどこから生まれたのだろうか。それをひとことで言えば「組織的な戦術レベルの違い」ということになる。 フランスは、スペインのビルドアップに対してハイプレスを行なわず、自陣に4ー4ー1ー1のブロックを形成してミドルプレスを守備の基本に据えた。それに対してスペインは、ビルドアップ第1列の2CB(ナチョ、エメリック・ラポルト)と第2列中央のロドリという3人のユニットが、フランスのコロ・ミュアニとエヌゴロ・カンテの1ー1ユニットに対して常に数的優位を確保し、プレッシャーを受けることなく簡単にボールを敵陣に送り込む(あるいは運ぶ)ことができた。 さらにフランスは、左ウイングのエムバペが前線と中盤の間という中途半端な位置に立っており、その背後のハーフスペースは左インサイドハーフのアドリアン・ラビオがケアすることが多かった。そのため、そこにスペインの右ウイングのヤマルが下りてきたり、あるいは右SBヘスス・ナバスが進出すると、局地的な数的不利や位置的不利が生まれることになる。 実際、スペインの2得点はいずれも、右CBナチョがフランスのプレスラインを割る縦パスをこの右のハーフスペースに送り込み、そこでフリーでパスを受けたダニ・オルモとヤマルが絡んで仕掛ける、同じ形から生まれている。フランスの守備戦術をシステマチックに攻略する戦術的な手段、組織的なメカニズムをスペインは持っていたと言っていいだろう。 こうして最初の25分で逆転に成功したスペインは、数的優位を活かしてフリーマンを作り出し前進する戦術メカニズムを、今度はボールを保持して主導権を握り、試合のリズムをコントロールするために使った。フランスは、スペインのポゼッションを分断してボールを奪回する戦術的な手段(マンツーマンのハイプレス、狙ったボール奪取ゾーンに誘導する連動したプレスなど)を持たず、受動的にスペインの攻撃を受け止めるだけだった。
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