詩人・谷川俊太郎 × 歌手・小林沙羅 「日本の詩」の残し方
言葉が軽い時代 発信する側の責任感
― 言葉が軽くなっている? 谷川 それはもう世界的な傾向です。原因は文明そのもの。テクノロジーが発達し、簡単に人と話せて悪口も言えてね。昔は手紙を書いて、返事がくるのを待って、ということだったわけで。それがいまは瞬間的にいいことも悪いこともできてしまう。やはりどこかに問題があると思います。だから僕はこうして対面して現場で話すのが一番いいと思っています。 小林 それで思い浮かぶのは、たとえばネットの記事。間違えてもすぐ直せるじゃないですか。新聞や本だと刷ってしまうとそのまま世の中にいっちゃってずっと残るから、神経をすり減らして編集するのに対し、ネットはちゃんとした媒体もあるけれど、『私ライターです』と言っちゃえば簡単に書けてしまうから、本当かどうかわからないことがあふれていく。音楽も同じで、以前はディレクターと何度も打ち合わせたりジャケットにしても作品として時間かけてつくってきたけれど、いまはネットの配信で軽く楽しめちゃう。 ― ある意味、難しい時代になってきたわけですね。 小林 そういうなか、本当にいいものをどうやって受け手側に届くようにしていくか、残していくか。発信する側も責任感を持っていかないと、と思います。 今月予定されていた「日本の詩(うた)」リリース記念の小林のリサイタルはコロナウイルス感染拡大の影響で8月に延期になったという。日本の詩が、いまこの時代に人々の心にどう響くのか、楽しみでもある。 (取材・文・撮影:志和浩司)