日本の伝統工芸品を「世界で売れる」化するためにやったこと
有田焼に輪島塗、京友禅に江戸切子。数え上げればきりがない、日本の伝統工芸品たち。高い評価を受けながら、その多くが経営難と後継者不足問題に直面している。「日本の伝統工芸産業を、世界市場で儲けられるようにする」。元百貨店マンが試みたのは、同産業を海外の高級五つ星ホテル市場へと参入させる戦略だった。
消えゆく伝統 「誇りはあっても金はない」
「子供に同じ苦労をさせたくない。たとえ歴史が途絶えることになっても、もう無理だ」 甲信越地方で地元に伝わる伝統工芸品を作り続けてきた職人は、力なく言った。 父の背中を見て育ち、先代たちを超える技術を目指して日夜研鑽に励んできた。技術は高く、希少性もあった。 だが、その暮らしや仕事への評価は芳しいとは言い難い。経営は苦しさを増し、社会から取り残されていくような疎外感を覚えるようになった。東京の大学に進学させた子供たちが社会に出る前に、工房をたたむことにした。 「同じようなことが、あちこちで起こっている。今この瞬間にも、日本の素晴らしい伝統工芸技術が消失しようとしている」と話すのは、ジャパンデントーコーポレーションCEO、堀井素史だ。 日本の伝統工芸品をインテリア素材として加工し、高級ホテルや一流ブランドに販売する同社。堀井のもとには、唯一無二の技術と高い芸術性を併せ持ちながら、存続を断念せざるを得ない伝統工芸産業従事者たちの悲痛な声が全国から届く。 一般財団法人・伝統的工芸品産業振興協会が認定した伝統工芸士は、全国に約3400人以上(2024年)。同協会によると、伝統工芸従事者の家族が「将来性に疑問」「儲からない」といった理由から、家業を継承しない事例が増えているという。 「美しいものを作り育ててきた誇り高い職人たちが、日本にはたくさんいる。彼らの作品と思いを世界に届け、伝統工芸を日本の外貨獲得主要産業にしたい」と堀井は意気込む。 堀井は大手百貨店でホテルの内装や建築資材を扱う業務に携わり、海外で現場経験を積んだ。海外関係者からの問い合わせをきっかけに、日本文化や芸術についての知見を深めた。その過程で目の当たりにしたのは、経営難と人材不足で衰退していく日本の伝統工芸産業の窮状だった。 「文化と技術が失われ、もう二度と再現できなくなるかもしれない。儲からないというのなら、儲かるものを作ればいい。日本のマーケットがだめなら、その何倍も広い海外市場を狙えばいい」 2010年。早期退職制度を利用して百貨店マンとして歩んだ35年のキャリアに終止符を打ち、起業した。 勝算はあった。 機械化が進んだ現代、職人の手によって作られる芸術作品は海外で高い評価を受けやすい。ホテル市場は拡大傾向にあり、五つ星クラスの高級ホテルなら内装や装飾といった美的価値への投資も惜しまないのが世界的常識だ。 「日用品でなくアート素材として売れば、価格競争にさらされない。日本の伝統工芸品の芸術性と技術は、世界で戦えるポテンシャルがある」と確信していた。