YMOチルドレンが描いた未来は今ここに 高野寛がデビュー35周年に発表した自身の作品について語る
マスタリング(音質や音量、音圧などを調整して作品を完成させる作業)は砂原良徳が担当。テクノグループ・電気グルーヴの元メンバーで、高橋幸宏のバンド「METAFIVE」にも参加した砂原もまた、YMOチルドレンだ。 「まりん(砂原の愛称)にマスタリングを頼んだのは、偶然だったんですよ。渋谷のクラブでYMO縛りのDJイベントがあると聞いて、たまたま近くにいたので行ってみたんです。そしたら会場にまりんが客として来ていて。二人ともそういうイベントに顔を出すタイプではないんですけど、爆音でYMOの曲がかかっているなかでいろいろと話をして。その場で“マスタリングをやってくれない?”って頼んだんですよ。僕はそういう偶然を面白がるタイプなので」 タイトル通り、現代的であると同時に、ビンテージ感も備えた本作「Modern Vintage Future」。まさにYMOの遺伝子を未来に手渡す作品と言えるだろう。 「そんなに大上段に構えているわけではないんですが、自分のことを知らない若い人にも届いてほしいなと思っています。YMOに影響を受けたこんなミュージシャンがいるんだと知ってもらえればいいかな」 ■高野寛のルーツ回帰となる随筆集 YMOチルドレンとしてのルーツ回帰は、音楽作品だけではなく、本にも派生。書籍「続く、イエローマジック」は、YMOに衝撃を受け、音楽家として人生を歩んできた高野寛がこれまでに出会ったかけがえのない人々との交流を綴った随筆集だ。 「この本を書いたきっかけは、ミルブックスの編集者の提案です。これは後から知ったんですが、彼は僕が司会をやっていた『土曜ソリトン SIDE-B』(※)が好きだったらしくて。小澤征爾さんの著書である『ボクの音楽武者修行』の“高野寛版”を書いてほしいというアイデアをずっと持っていたそうなんです。本の方針は二つあって、まずは人との出会いにフォーカスすること。もう一つはあまり専門的になり過ぎず、脚注を入れなくても読めるようにすることでした。記憶が曖昧なところは調べなくてはいけないし、そもそも本1冊を書き下ろしで執筆するのは初めてなので、けっこう大変でしたね。過去のつらい時期を掘り起こして、そのときの感情に向き合うことも必要でした。いちばんきつかったのは、ヒット曲を求められて、自分がやりたいこととバランスが取りづらかった時期。今となっては“そういうことの積み重ねが今の自分につながっている”と思えるんですけどね」 (※1995年から1996年にかけてNHK教育テレビで放送。YMOのメンバーをはじめ、当時の最先端だったアーティストが出演した)