<春に挑む・’22センバツ長崎日大>/中 マネジャー チーム支える絶大な信頼感 /長崎
「いぶきを甲子園に連れて行く」。野球部の部室入り口に、そう書かれたホワイトボードが立て掛けられている。「いぶき」とは昨年夏の新チーム発足時、選手からマネジャーになった緒方伊吹さん(2年)のことだ。 長崎日大では新チーム発足時に、学生コーチの役割を担うマネジャーを選手の中から選ぶのが伝統になっている。3年生引退後の昨年7月下旬、2年生の全部員が部室に集まってミーティングを開き、次期マネジャーについて1週間話し合った。その中で白羽の矢が立ったのが、責任感が強く仲間からの信頼も厚い緒方さんだった。 緒方さんは中学時代、地元のリトルリーグでプレーし、甲子園を夢見て長崎日大に進学。試合の出場機会には恵まれなかったが、「人一倍練習する選手」(平山清一郎監督)だった。だが、昨年6月に腰椎(ようつい)分離症と診断されてからは選手のサポート役に徹していた。 突然マネジャーの打診を受けた緒方さんは戸惑った。選手として甲子園を目指していたのに後悔しないだろうか……。引き受ける決め手になったのは「絶対にお前を甲子園に連れて行ってやるから」という仲間の言葉だった。母亜紀子さん(40)の「どんな道を選んでも応援する」という言葉も後押しし、「甲子園で勝利のスコアを書いてやろう」とマネジャーへの転身を決意した。 マネジャーは野球以外の学校生活にも気を配るのが仕事だ。掃除をさぼったり授業に臨む態度が悪かったりする選手には「練習に来るな」と厳しい声をかけることも。練習では自らバットを握ってノックを打ち、トスバッティングの球出し役も買って出た。 「いぶきがいなければ今のチームはない。チーム内で一番でかい存在」と種村隼(じゅん)投手(2年)は絶大な信頼を寄せる。平山監督も「緒方の成長がチームの成長にもつながった」と目を細める。 新チームは緒方さんを中心にまとまり、秋にかけて投打ともに順調に仕上がった。秋の県大会は決勝でライバルの海星に敗れたものの、2年連続で秋の九州地区大会に進出した。「先輩たちの借りを返すため、必ずセンバツ切符をつかもうと士気を高めた」と河村恵太主将(2年)。緒方さんとの約束を果たすための戦いが始まった。【長岡健太郎】 〔長崎版〕