柚木麻子さん、新刊『あいにくあんたのためじゃない』を語る! “自分が嫌いな人間”を徹底的に追求した体験とは?
長年の悩みも、相手や場所が変われば解決されることがある
――今回の書籍では、「自分で自分を取り返せ」というキャッチコピーがとても印象的でした。柚木さんは、「自分が自分のままでいられていない」と感じることはありますか? 柚木さん: あります、あります。私は小説家として、女性の心理や友情、信頼関係とかをまじめに描いてきたつもりなんですけど、書評や帯に「女は怖い」とか「女同士の怖さをえぐらせたらいちばん」とかって書かれてしまうことが本当に多くて。それにずっと悩んでいたんですね。 「女は怖い」と言われないために、あえてポップに『あまからカルテット』や『アッコちゃん』シリーズなどの小説も書いてみたりして。ありとあらゆることをやり尽くしたけれど、それでもやっぱりそう言われてしまう。この10年間、そのことにずっと頭を抱えていました。でも最近、それが思いも寄らない方法で解決されたんですよ。私の書いた『BUTTER』がイギリスやフランス、ドイツで翻訳版が出版されることになったんですが、あちらでも帯に「女は怖い」的なことを書かれるのかな…と恐る恐る、現地で貼られるポスターを見たら、あれこれ書かずに一言 「私、フェミニストとマーガリンが嫌いなの(原文:THERE ARE TWO THINGS THAT I SIMPLY CANNOT TOLERATE : FEMINISTS AND MARGARINE)」 とだけ書かれていたんです。「超かっこいい! 誰が考えたの? あ、これ本の中のセリフじゃん!」と(笑)。作中のセリフを書いただけなのに、すごいクールに見えて。だから、同じ事象でも環境が変わったり相手が変われば受け取られ方も変わって、悩んでいたことが嘘みたいになくなることもある。あれを見たときは、うれしかったし、これまでやってきたことが報われたような感覚がありました。
自分が信じるもののために行動すること
――柚木さんにとって、「自分が自分である」というのは、どのような状態でしょうか? 柚木さん: 一言で表現するのは難しいですね…。でもひとつ言えるのは、初めて「自分が自分のまま」でいてもいいんだ、と思うことができたのは、2023年から始まったpodcast番組『Y2K新書』かもしれません。それまではトーク番組とかに出てもイマイチ跳ねなくて、「自分にテクニックがないからだ」と悩んでいたんですよ。でも思い返すと、これまで出てきたメディアって、こういう議論をして、こういう結論を導き出す…というように、あらかじめゴールが決まっていることが非常に多くて。 例えば「育児で報われた瞬間」みたいなお題が出されてトークするときとかって、回答の内容がなんとなく想像できるというか、選択肢が限られている感じがするじゃないですか。 もちろん制限がある中で輝ける人はたくさんいるけど、私はそうじゃないので。かといって伸び伸び喋りすぎてしまうと暴走して、スタジオにいる全員にキョトンとされて終わってしまう。その連続でした。 一方『Y2K新書』では自分が自分でいながらベラベラ喋って、竹中さんやゆっきゅん(柚木さんと『Y2K新書』に出演する、振付演出家の竹中夏海さん、アーティストのゆっきゅんさん)が聞いてくれて、さらにそれを面白いと思ってくれる人がいる。しかもそれも、一人、二人ではなく本当にたくさんの人が楽しんでくれている。それは自分にとってすごくうれしい発見でしたし、心の支えになっていると思います。 ――自信を持って自分を表現できる状態、という感じでしょうか。 柚木さん: そうですね。私にとっては、自分を認めてくれた友達や世間が、自分であることを肯定することにつながったと思います。もしも今、「自分を取り戻したい」と考えている人がいるならば、仲間の力を借りるといいと思います。もし仲間がいなかったら、まずは自分が誰かの力になってあげる。『めんや 評論家おことわり』で、佐橋という敵と戦うために結束する仲間たちのように。自分が信じていることのために行動することが、自分を取り戻すことにつながるんじゃないかな。 「【後編】自己否定から抜け出せない、家族での集まりにもやもや…。“あんたのためじゃない” 自分を生きる人生相談」に続く 撮影/Kaname Sato 取材・文/中西彩乃 構成/種谷美波(yoi)