初代アウディ A7スポーツバックはメルセデス・ベンツCLSへの強烈なカウンターパンチだった【10年ひと昔の新車】
2010年8月、初代アウディ A7スポーツバックがドイツ本国でデビューした。快適で美しく、合理的で高効率、そしてスポーティな新しい4ドアクーぺというスタイルは、メルセデス・ベンツCLSなどがすでに高い支持を得ていたが、そこにまた1台魅力的なモデルが登場した。 初代アウディ A7スポーツバックは2011年5月に日本にも投入されて人気となったが、本国デビュー当初はどう評価されていたのだろうか。Motor Magazine誌はイタリア・サルディニアで開催された国際試乗会に参加しているので、今回はその時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2010年11月号より) 【写真はこちら】 サイドシルエットはまるでクーペのように流麗。それでもたっぷりとしたボディサイズもあって、室内には快適な空間が実現されている。高速走行時はトランクリッドスポイラーがせりあがる。(全5枚)
初代メルセデス・ベンツCLSの成功の後を追うように登場
欧州、日本、そして北米といった成熟した自動車市場で販売台数をさらに増加させるには、新しいジャンルのクルマが必要と言われる。 この定説にしたがって2004年10月に登場した初代メルセデス・ベンツCLSは、4ドアクーペというユニークな発想が受けて、累計17万台をラインオフする大成功を収めた。 そしてその後を追うように、クラスは異なるが、ポルシェ パナメーラ、アストンマーティン ラピード、パサートCC、アウディA5スポーツバックなどが続々と登場している。とりわけアウディはこのジャンルに積極的で、スポーツバックと命名したモデルのシリーズ化を推し進めている。その最新モデルがA7スポーツバックである。 全長4.97m、全幅1.91m、全高1.42m、そしてホイールベースは2.91mと、そのサイズはメルセデス・ベンツCLSに近い。そしてデザインは「精緻」という言葉がぴったりで、どこにも無駄なラインや面がなく、まるでいつも宿題をきっちりとやってくる生徒のノートのようである。 インテリアも近代家具のように整理され、高級感に溢れている。オプションで選択できる溝の入った木目パネルなど、まるで豪華ヨットのような雰囲気だ。 問題のリアシートだが、身長168cmの小柄な筆者にはどの方向へのスペースもまったく問題がなかった。メーター類の視認性やスイッチ類の操作系にも文句のつけようがなく、A8譲りのタッチパネルをはじめ、インターネットアクセスなどハイテク装備にも抜かりはない。 搭載されるエンジンは4種類。204psの2.8L V6FSIと300psの3L V6TFSI(スーパーチャージャー)、そして204ps仕様と245ps仕様の2種類の30L V6TDIである。いずれも4ドアクーペというスポーティなシルエットを持ったA7スポーツバックに相応しい動力性能を発揮する。 これらのエンジンに組み合わされるトランスミッションは、チェーン式のCVTであるマルチトロニックとデュアルクラッチのSトロニックの2種類で、ATやMTは存在しない。マルチトロニックはFF用、Sトロニックはクワトロ用となる。 マルチトロニックは走りの快適性と燃費性能を重視したもので、別に問題はないが、遅れてトルクが伝わるところが少し気になった。 一方、Sトロニックはオーバーオールレシオやシフトマップ、アプリケーションの見直しが行われ、コンフォートおよびダイナミックの両面が改善されていた。たしかにスタート時のショック、そしてストップ&ゴーにおけるギクシャク感は間違いなく少なくなっていた。加えてトルコンのようなスムーズさが実現できれば、日本やアメリカのオーナーもすべてSトロニックに賛同するはずである。