湘南美容クリニックがナスダックに上場、急拡大する美容医療市場
他方、人と会う機会が減ったことで「今ならダウンタイム(術後に起きる痛みや内出血などが回復し、日常生活に戻るまでの期間)を気にせずに済む」と美容医療の施術を受ける人は増加した。 JSAPSの調査によると、2022年の施術数は2年前の2.2倍。繁華街や駅前など立地のよい店舗スペースがコロナ禍で空き、美容クリニックは出店攻勢をかけることができた。そうして店舗数を増やしたのが冒頭で紹介したSBC・HDや、業界2位のTCB東京中央美容外科である。
出店が増えても、医師がいなければ美容クリニックは開業できない。客の大半が「切らない施術」であり、医療行為としては簡単な部類であることから、大手美容クリニックによる若手医師の青田買いが目立つようになり、医療界では「直美(ちょくび)」が問題視されている。 消費者トラブルも増えている。傷痕が残ったり、高額な割に施術効果が低かったりするなど、苦情が多発。国民生活センターによると、2023年度の美容医療サービスに関する相談件数は6264件で、2年前の約2.3倍になった。
急成長の必然か、ゴタゴタが伝えられる大手グループがある。コロナ禍で躍進したTCB東京中央美容外科は、『週刊文春』によると今年9月以降、大幅な人員減を実施した。 課題を抱えながらも市場が拡大する美容医療。これからどこに向かうのだろうか。 ■厚労省が規制に動く? まず挙げられるのがオンライン診療の拡大だ。かつては初診でのオンライン診療は認められていなかったが、2020年4月、コロナ禍を機に解禁になった。美容医療やダイエット診療などの自由診療分野は来院のハードルが高かったが、これが追い風になっている。
企業もこうした動きに追随する。楽天グループは、NEXYZ.Group(ネクシィーズグループ)とSBCメディカルグループが設立した医療検索・オンライン診療サイト運営会社のアイメッドと手を結び、薬の直販に乗り出している。 もう1つの流れが、美容クリニックのM&A(合併・買収)だ。脱毛クリニック大手の「ゴリラクリニック」「リゼクリニック」は、親会社が事業整理をするタイミングで、SBC・HDの相川氏が個人マネーで買収した。コロナ禍後に業績が落ち着いたクリニックの合従連衡は今後も続くだろう。
今後のカギを握るのは国の動きだ。これまでは消費者トラブル以外は静観していたが、ついに重い腰を上げた。 6月、厚生労働省は美容医療分野にメスを入れるべく、「美容医療の適切な実施に関する検討会」を設置した。美容を目的とした医行為について、診療行為・契約行為を洗い出し、年内に議論をまとめる。何らかの法的規制にまで踏み込むのか、注目される。
中村 孝史 :ジャーナリスト