「どうせ文字だし」…アカデミー賞受賞の売れっ子脚本家・足立紳が「映画の脚本家は低く見られている」と憤る理由
足立氏があえて無能をさらす理由
――やりがい搾取のほか、エンタメ業界は「パワハラ」が蔓延するイメージもあります。 最近は、「自分が嫌だと思ったらそれがハラスメントだ」と言われますが、僕は一概にそうではないと思っています。僕の肌感覚ですが、例えば難しくて厳しい指示を出されたとしても、それが一概にパワハラではなく、「難しいことを言われている気はするけど、確かに面白くはなりそうだよな」と思えるかどうか。「映画を面白くするという共同作業を楽しいと思えるかどうか」。多くの人との共同作業の場を苦手とする方もいるので、その場合はパワハラがなくてもきついと思うし、そういった共同作業に向いてない方が、精神的苦痛を感じてしまうこともある。でも、映画やドラマが好きだから作りたい気持ちはある。こういった場合がなかなか難しいと感じています。今は一人でも映画を作れる時代にはなりましたが。 ――「難しいことを言われている気はするけど、確かに面白くはなりそうだよな」。これは、一般の会社なら「業績が上がりそうか」などの「先々のビジョン」が見えるかということですね。 目的がわからないのに動かされるのは苦しいですから、上の人間がしっかりとビジョンを伝えれば、こうした問題も少しは減るのではないかと。今は、僕が監督として指示を出す立場になることも多いので、自分がその点をスタッフさんや俳優さんに伝えられているか、いつも考えています。 ――足立さんは「パワハラ加害者」になる立場ですもんね。そうならないようには常に心掛けている? はい。すべてのキャストスタッフの方々が「リラックスした状態でいられる」ことの雰囲気作りです。僕個人は、これが監督として一番大きな仕事だと思っています。そうしたほうが意見も言いやすくなり、作品も面白くなる確率が高くなると思います。 ――その雰囲気はどのように作られているのですか? 僕の場合は自分の無能さやダメさをさらけ出すということです。そうすると経験の浅い若い人たちもリラックスしますし、「俺たちがしっかりやんなきゃ」とも思ってくれます。監督はたしかに現場の統率者ではあるのでしょうけど、いろんなタイプの統率者がいていいと思います。謙遜でなく僕は本当に無能です。でも、他の人も得手不得手ありますから実は似たようなレベルなんじゃないかという気はします。みんなホントは似たようなレベルだよというのが全スタッフに伝わると、みんなが「実は自分もたいしたことないんです」というようなことを言いやすくなる上に、面白いことを一つや二つは誰でもが考えていて、その意見が出てくることもある。 ――映画監督ってなんとなく厳しいイメージがあったので面白い話です。 でも、無能さをさらけ出しすぎると「あいつはダメだから、適当にやっていればいい」と思われてしまうこともあるので、この塩梅は結構難しいです。それでも、俳優、スタッフが「体が自然に動くリラックスした空間」を作りたい。僕自身がリラックスできていないときはロクな仕事ができない。だからみんなが体が動きやすい空間に、現場をしたい。でも、厳しく緊張感を張り詰めさせたほうが能力を発揮する人もいると思うので難しいですね。そういうやり方が心と体に合う人もいると思うし、そこは否定したくない。僕はそういう空気が出せないし苦手だから、自分なりのやり方をしているだけですが、本当は苦手と排除せずに混ぜこぜがいいと思う。