『ドライブアウェイ・ドールズ』 イーサン・コーエン監督&トリシア・クック 型破りな夫婦関係ですべてを一緒に決断 【Director’s Interview Vol.408】
目指したのは明るいクィアムービー
Q:この作品にはクィアの要素が濃厚です。クィアをテーマにした作品はシリアスな展開や社会性が強いもの、悲劇に偏る傾向もあるなか、本作は徹底して明るいところが印象的です。 トリシア:そこは脚本を書く段階から意図していました。明るくポジティブなレズビアンの映画が少ないと実感していたからです。でもここ2、3年で、コメディや、メッセージ性の不要な作品も増えてきているように感じます。LGBTQのメディアと話し、肩の力を抜いたレズビアン映画の本作を気に入ってくれたことがわかりましたし、特定の性的アイデンティティを扱った作品が、より広範囲の観客に受け入れられてきたのは時代の流れでしょう。 イーサン:ジョエルと僕の過去の作品にしても、ユダヤ人を主人公にすることが多かったりして、その意味では人種的な偏りを察知され、誰かを憤慨させるリスクはありました。ユダヤ人であることが言及され、そのイメージを壊すような映画で、本心から激怒されるケースは少なかったと思うけど、君たちのコミュニティではどうなの? トリシア:うーん、私たちのコミュニティにも怒りで立ち上がる人もいるかもしれないけど……。 イーサン:基本的には礼儀正しい? トリシア:そう願ってる(笑)。 Q:いずれにしても、『ドライブアウェイ・ドールズ』がB級映画のテイストも含んだ、まさに肩の力が抜けた作品なのは意識的なのですね。 イーサン:今になって、自分でいることのプレッシャーから解き放たれた気分です。近々、僕も何かをカミングアウトするかもしれない(笑)。それはともかく、ジョエルと僕のこれまでの作品も、B級のノリでトラッシュな要素を備えたつもりが、まわりから高尚だと過大評価されてきた部分があるんじゃないでしょうか。だから本質的には今回も変わってないんですよ。 Q:基本的に自分たちの映画に対し、高尚さや社会への影響はあまり考えていないのでしょうか。映画を撮る意味をどう考えていますか? イーサン:まず言えるのは、1本の映画をだいたい1年かけて作ると、お腹いっぱいの気分で、その作品を忘れたくなる、ということ(笑)。僕は自分のために映画を撮っているわけではなく、特定の人々に向けて作っているつもりもありません。だから作品への反応に関してはあまり気にならないですね。一方で、映画全般が観る人にどんな影響を与えるのかは考えます。君も同じ意見? トリシア:あなたのように、私は一人のアーティストとして見做されていないので何とも言えないのですが、キャリアのほとんどが映画の仕事なので、多くの才能と一緒になってストーリーを見つけ、完成させるプロセスに喜びを感じています。イーサンと一緒に映画を作ることで、優秀なスタッフと刺激的な時間を過ごせることは、私の人生に大きな意味があるのです。 イーサン:アーティストなら誰でも創作過程に喜びを感じるはずだけど、たしかに映画の場合、共同作業がエキサイティングですね。