ABRボディキット! 譲れぬこだわりが生んだ 唯一無二のワイドスタンス|1982年式 日産 フェアレディZ
「こんなクルマに乗りたい」という、オーナーの純粋な思いを具現化したS130Z。最高速シーンが最も華やかだった時代を象徴するボディキットをまとい、熟成を重ねたL型チューンで、現代のクルマを軽くちぎっていく。そんな痛快極まりない仕様に仕上がったS130Zだが、オーナーにとってはまだまだ通過点。旧車を愛する強い気持ちを共有できる周囲の協力を得ながら、今後も進化の手を止めることはない。そして、純銀のZは今夜もまた湾岸へと繰り出す……。 【画像36枚】「こんなクルマに乗りたい」という、オーナーの純粋な思いを具現化したS130Z。最高速シーンが最も華やかだった時代を象徴するボディキットをまとい、熟成を重ねたL型チューンで、現代のクルマを軽くちぎっていく 【1982年式 日産 フェアレディZ】 公道ゼロヨン、東名レース、湾岸最高速……。かつて有名無名の猛者たちが熱き血潮をたぎらせた狂騒時代の逸話は、今となってはネットを騒がす都市伝説としてしか知る由もない。 それは、L型チューンが最も華やいだ時代でもあり、後世に名を残す多くの名チューンドが生まれた黄金期でもあった。最高速シーンの名チューナーとして知る人ぞ知る存在である、「ABR細木エンジニアリング」が製作したS130Zも、時代を先駆けた一台として有名である。 当時ABRのS130Zが話題となったのは、L28型改ツインターボという中身の濃さもさることながら、やはりオリジナルのボディキットのカッコよさが最大の理由といえるだろう。 S130ZのスタイリングはS30Zよりもワイドで、リアオーバーハングも長くなったことから賛否両論を生んだのは周知の事実。 だが、ABRのボディキットは、そんなワイドスタンスをよりスピーディーに見せるエアロスタイルを実現してみせた。止まっている状態でも、動きを感じさせるダイナミックな造形美は、今見ても斬新。もし日本に自動車文化の殿堂のようなものがあれば、S130Zをノーマルよりカッコよく見せるエアロの傑作として、栄誉をたたえられているに違いない。 そんなABRのボディキットにほれ込み、自分だけのS130Zを見事に生み出したのが、千葉県在住のオーナーだ。根っからのクルマ好きである鶴岡さんは、S130Zのほかにも複数台の旧車を所有しているが、足かけ7年にわたって完成させたS130Zに対する愛着は特に強い。 「車体を購入した時点で、ABRのボディキットを装着する青写真を思い描いていました。ABR細木エンジニアリングのホームページで、まだ新品が手に入ることを確認して、直接電話してオーダーしたんです。その時に細木さん(細木 勝代表)ともお話しできたんですけど、何十年も前にあのボディキットを生み出した有名な方が、今も現役で活躍されていることに刺激を受けました」 そう語るオーナー。大好きなクルマの話しをする時には、自然とキラキラとした笑顔が浮かぶ。 「ボディカラーもメルセデス・ベンツのW220のSクラスなどに採用されていたカルセドニーシルバーという、少し青みがかったシルバーで塗りたいと最初から決めていました。作業は懇意にしている千葉県香取市の秋葉鈑金塗装工場のお世話になりました。完成までそれなりに時間はかかってしまいましたけど、仕上がりにはすごく満足しています」 自らも作業場兼クルマ置き場を持つ鶴岡さんだが、最近は仕事が忙しく、クルマ作りはもっぱら信頼を置くプロに依頼することにしている。 プロデューサーでもあるオーナーの理想像が明確であるほd、クルマの完成度は高くなる クルマのパートごとに、どのお店にどんな作業をお願いするか。それはオーナー自身のプロデュース能力も問われるところだが、鶴岡さんのように「こうしたい」という理想像が明確であるほど、クルマの完成度は高くなる傾向にあり、理想が現実となった時の気分は爽快そのものだ。 「パナスポーツのホイールも、自分にとってはこだわり中のこだわりです。S130Z以外のクルマも全部パナを履かせているくらいなので(笑)。まずはホイールを買って、ボディをそれに合わせることもいとわないんですが、S130Zに関しては、ドンピシャでうまくいきました」 高貴な雰囲気が漂うシルバーのABRボディに、ゴールドのパナスポーツレーシングG7-C8Sを履く姿は、まさに鶴岡さんが思い描いてきたイメージがそのまま具現化されたようなもの。シュッと流れるフェンダーラインとレーシーな3ピースホイールの共演は、車高を落としたスポーツカーだけが持つクルマの本質的なカッコよさを物語っている。 オーナーのS130Zは、外観だけにとどまらず、エンジンをはじめとする機関系にまでしっかり手が入っているところにも注目すべきだろう。エンジンの製作を依頼したのは茨城県神栖市のNプラス。L28型ベースの3.2L仕様で、ストリートドラッグ的なスペックで仕上げられている。 ムービングパーツはワイセコ製のφ89mm鍛造ピストンとカーニングハム製コンロッド、89mmストローク8カウンタークランクを使用。N42ヘッドは1.5mmの面研を施し、ワコー製75Sカムシャフトを備える。貴重なソレックス50PHHのOHと再セッティングも行い、点火系もMSDで強化した。 トランスミッションは亀有製のスーパークロスミッションギアを組み込んだR32スカイラインタイプM用の71Cを搭載。クラッチはOS技研製のトリプルプレートを使用するほか、ファイナル4.3のR200デフ、R31用ドライブシャフトなどを備え、3.2L化に合わせた駆動系のバージョンアップも行われている。 「キャブに関していえば、『一番上があるなら一番上を使う』というのが信条なので、自分が持っているクルマはほとんどソレックス50PHHで統一しています。だから部品交換とか調整に関しては、それなりにノウハウを蓄積することができました。タコ足はファクター、マフラーはスチールのワンオフです。けっこうトルクがあって乗りやすいですよ」 普段なかなかクルマを作る時間が取れない分、乗り手としての時間を大事にしているオーナー。夜な夜な湾岸に上がっては、パンチの効いたL型サウンドを弾かせているそうだ。 そんなオーナーのS130Zだが、実は昨年のノスタルジック2デイズでは、茨城県筑西市にある谷島自動車のブースに出展されていた。2デイズへの出展にあたって、谷島自動車にはワンオフでの燃料系の配管製作や配線の引き直し作業を依頼したそうだ。谷島自動車といえば、ドラッグ仕様のS30Zや6気筒のL型エンジンを搭載したS14シルビアで話題のお店だが、オーナーがオーダーしたような細かなワンオフ製作にも対応してくれる。 「バッテリーの移設や、いわゆるワイヤータックはやってはいたんですが、ノスタルジック2デイズに出るにあたってさらにすっきりキレイに見せたいという思いが強かったので、あらためて見た目と機能性にこだわった配管と配線を谷島さんにお願いしました」 そうオーナーが説明するように、キャブへの燃料供給にはリターン式のフューエルデリバリーが使用され、レギュレーターはフィード側とリターン側の2機がけ。アクセルリンケージも新規で製作されており、見た目の美しさと安定性に対して並々ならぬこだわりが込められているのが分かる。 常に最適な燃圧が得られるように、丁寧かつ凝った造りに トランクスペースにコレクタータンクと電磁ポンプを2機備えるのはL型チューンドにとってはおなじみではあるが、ボディの下まわりにもワンオフのステーを使って追加ポンプと燃料フィルターをマウントするなど、常に最適な燃圧が得られるよう、丁寧かつ凝った作りが採用されている。 また、電気系も以前からトランクに移設されていたバッテリーをはじめ、ステーにまとめられたリレー、MSDのイグニッションボックスなどの配線を整理。エンジンルーム側も以前は赤だったプラグコードをブラックに変更するとともに、取り回しを工夫することで存在感を消し、エンジンルーム全体のすっきり感を強調させている。 ABRのボディキットにばかり目が行きがちなオーナーのS130Zだが、実はそうした黒子に徹した職人技も満載。チューニングのすべてを自分でやろうとすると体がいくつあっても足りなさそうだが、鶴岡さんは結果的にうまくタイムマネジメントも行ってきたといえるかもしれない。 「いやあ、まだまだやりたいことはたくさんありますよ。2デイズでひとつの完成形を見たのは確かですけど、あくまで通過点なので(笑)。それにクルマは作るのも楽しいですけど、やっぱり乗るのが楽しい。これからも自分なりに、かっこよくて走れるクルマを作っていきたいです」 オーナーの笑顔には、あこがれを現実のものとしたひとりのクルマ好きとしての満足感があらわれていた。昨今暗い話も多いが、オーナーのポジティブなエネルギーは、多くの旧車ファンに勇気を与えるに違いない。 初出:ノスタルジックスピード vol.026 2020年8月号 (記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)
Nosweb 編集部
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