ボディビル界の若虎、大失敗経てラストイヤーに学生の頂点に「筋トレやるときはやる、休むときは休む。充実した日々で絞り切れた」
「VITUP!さんですよね……?」 ちょうど1年前の2023年9月30日、深谷市民文化会館。学生ボディビル(学ボ)恒例、大会後の“撮影タイム”中にステージ上で後ろから声を掛けられた。ファインダー越しに3度その姿を目にしてきたが、彼と直接言葉を交わしたのはそれが最初であった。 【フォト】これが学生No.1!若虎が見せたバルキーボディ
2023年は“こんな順位”
選手はもちろん観客もステージに上がることが許され、集合写真を撮る大学もあれば、同じステージに立った者同士、あるいは家族や恋人と思い出の一枚を残す選手もいる。他大学の筋肉学生と記念の2ショットを撮る女子もいる。僭越ながら我々メディアもそこで撮影に加わり、タイミングを見て選手にインタビューさせていただいているのだが、彼が声を掛けてきたのは一通りそれらを終え、「そろそろ撤収するか…」と思っていた頃であった。 「今日は自分、こんな順位やったんでインタビューなんてしてもらえないと思います。でも来年絶対に優勝するんで、そのときは取材よろしくお願いします」 言葉の主は、大阪学院大学の本多虎之介。この日の彼の順位は第5位であり、通常であれば十分に立派なもの。ただ、彼が“こんな順位”というのには理由がある。1回生時は8位、2回生時は3位と順位を上げており、この年は優勝候補と言える存在であったはずだからだ。 ところが後に本人が「オフをとらなすぎて、疲労がたまったまま。一生むくんでいるような状態だった」と振り返ったように、ポテンシャルを発揮できずにこの順位に。審査委員長の臼井オサム氏も講評で「本来の彼はこんなものではない」と名指しでダメ出しするほどであった(むろん、それは期待の裏返しではあるが)。
学生最後の舞台でパワーを解き放つ
迎えた2024年――。 9月29日に行なわれた「第58回全日本学生ボディビル選手権」のステージに立った本多に、昨年のような甘さはいっさい見られなかった。「自分のやってきたことを信じて。周りの選手のことは気にせず、自分との戦いだというのは今年こだわってやってきたことなんで」と語るように、2022年までのバルキーさを取り戻し、予選からアクセル全開で存在感を放った。そして結果は、見事に優勝。全日本学生オープン選手権、関西学生ボディビル選手権で優勝、部分賞もほぼ総なめにしてきたボディで学生最後の舞台に臨み、見事に表彰台の頂点に立った。 「優勝したっていう実感が今はまだなくて。今年3戦目ということもあり調整はシンドかったんですけど、やっぱり学生最後の年なんで。優勝宣言をして、なんとかそれを果たすことができました。有言実行できてうれしいですね」 関東学生TOP2の大島達也(日本体育大学4年)と岡野陸(東京大学2年)に加え、会場を驚かせたダークホース・久野清照(名城大学2年)ら強力なライバルがずらりの今年の決戦。それぞれが個性を見せる中で本多は、部分賞こそ「腕」のみの獲得となったが、どの部位においても上位につける総合力の高さに加え、「ベストポーザー賞」を獲得したように、小柄ながらもデカく見せるポージングが際立っていた印象だ。特にモストマスキュラーポーズでは何度も牙をむき出しにして吠え、「気合いとノリで(笑)」学ボ特有の部分賞審査、度重なる比較審査を戦い抜いた。 「去年の失敗があってこその今年だったと思います。オフは休む、やるときはやるというメリハリをつけたことで減量も気軽にできました。筋トレとそれ以外のプライベートも分けて、めちゃくちゃ充実した日々を過ごしたことでことで絞り切れましたし、それが今回の順位につながったと思います。とはいえ、仕上がりに悔いはないんですけど、それまでの大会で獲れてた部分賞をあまり獲れなかったのは、まだまだ改善の余地はあるってことなんやと感じました」