失われた海草藻場の復元にロボットが一役 米
ノースカロライナ州モアヘッドシティー(CNN) 「パンケーキの生地のようになるのが理想」。種子を混ぜた溶液を準備しながら、ナスタシア・ワイニー氏はそう話す。溶液は海草植え付け用のロボット「グラスホッパー」に装填(そうてん)される。ワイニー氏がロボットエンジニアを務める企業、リーフジェンは、世界各地で失われた海草生息地の復元に取り組んでいる。 【映像】失われた海草藻場、復活にロボットが一役 アラスカからオーストラリアまでの海底で確認される海草藻場は、地球上で最も広範囲に及ぶ沿岸の動物生息地の一つだ。海底全体のわずか1000分の1を覆うだけではあるが、そこに生息する海草は水界生態系において重要な役割を果たしている。海洋生物に生育場所を提供する他、海洋中の二酸化炭素の18%を蓄積している。 しかし、この極めて重要な水中の生息地は減少しつつある。世界規模で毎年約7%が失われているとみられる。沿岸部の開発や気候変動、乱獲、環境汚染などが要因だ。 「かつて地球上にはおよそ1800万ヘクタールの海草藻場が存在した。そのうちの30~40%が失われてしまった」と、リーフジェンのクリス・オークス最高経営責任者(CEO)は説明する。 海洋生物学者でもあるオークス氏にとって、これは悩ましい数字だ。 同氏はCNNの取材に答え、「海草藻場がなければ海岸浸食が一段と進み、サンゴ礁は失われ、漁業資源も欠乏するだろう。海水の質も悪化するはずだ」と述べた。 リーフジェンはグーグルの研究機関グーグルXの共同創設者、トム・チー氏が5年前に立ち上げた。同氏はハワイにある自宅近くのサンゴ礁が減少しているのを目の当たりにし、エンジニアリングとロボット工学に支援を求めた。
復元にロボットを活用
海草を復元する計画は多くの場合、ダイバーが種子や若芽を海底に植え付ける方法を取る。この工程には時間がかかり、成果も少ないとオークス氏は指摘する。加えて海底での長時間作業はダイバーにリスクを及ぼすこともある。 「手作業でも植え付けることは出来るが、作業内容が緩慢で汚れが付きやすい環境なら断然ロボットが望ましい。危険な作業を遠隔で行う場合もそうだ」(オークス氏) 技術が進歩し、部品のコストも過去20年で低下する中、水中ロボットは既に過酷な海洋環境での探索、作業で重要な役割を果たしつつある。 「ロボット工学の観点から現状何が素晴らしいかと言えば、手頃な値段の既製品がたくさんあることだ。おかげで復元作業のような新たな利用法にも踏み込んでいける」とオークス氏は説明する。 リーフジェンが初めて設計したロボットは「コーラ」と名付けられた。コーラは岩礁にコーラルプラグを植え付け、サンゴの再生を支援する。コーラを土台にして生まれたのが、海草の植え付けを繰り返すグラスホッパーだ。 重量わずか23キロのグラスホッパーには、ピンクのスキー、数台のカメラ、数多くの技術が搭載されている。現状1分間に最大で60個の種を植えることが出来る。容量20リットルのバッグには最大2万個の種を蓄えられる。 グラスホッパーは事前に準備した海草の種と泥の溶剤を、海底の沈殿物の中に注入する。 四つほどの種を植え付け用の管を通して放出した後、グラスホッパーは30センチ前後飛び跳ねて次の注入ポイントへ移動する。周辺の環境を乱さないようにするためだ。 グラスホッパーはまだ完全自律型ではなく、海上にいる人間がコントローラーを使って操縦する。またダイバーが海底に置いた横断線に従って動く。横断線は区割りと方位を知るための測定用テープ。 「現在のところ、我々は種の植え付けと生物学、機械的側面に注力している」「全て適切に設計されているとの確証を得られれば、航法などより半自律性の高い機能をかぶせていくだろう。そこまでいけば実際には、操縦も横断線の設置もしなくてよくなる」(オークス氏)