なぜ目黒蓮の演技は視聴者を引き込んだのか? 『海のはじまり』で追求したリアルな芝居の真骨頂とは? 考察&評価
複雑な胸の内が伝わる目黒蓮の表情
夏と水季の8年ぶりの再会は葬式という、かつての恋人の死だけでもなかなかの衝撃だが、さらに自分の血を引く娘がいたという事実を突きつけられる。 水季の母・朱音(大竹しのぶ)や、水季が働いていた図書館の同僚・津野晴明(池松壮亮)からの当たりも強く、突然知らされた夏の立場を思うと少々酷であった。そんな驚きや悲しみ、やり場のない気持ちなどが混ざった複雑な表情からは、心臓の鼓動が聞こえてきそうなほど。 雄弁なタイプではない夏。朱音や弥生との会話では一層その性格が浮き彫りになった。どうしたらいいのか答えが出ない様子、胸の内は複雑という一言では語れない心模様が伝わってくる。 眉や目の動きの表情のさじ加減をはじめ、喉もとのわずかな動き、言葉で伝えるときの息継ぎのタイミング、手に込めた力などからは、緊張や葛藤など言葉にならない様子が伝わってきた。 また、わずかな場面で絶妙な間合いも上手く、第9話で言えば手を繋ぐシーンもその1つ。 クリスマス時期の回想では、手を繋ぐ前の腕と腕が触れ合うような距離感を少しだけ保ち、嬉しそうにごく自然な流れで手を繋いでいた。それが時間経過と共に、3人で手を繋ぐように。海と3人で遊んだ帰り道、弥生はバッグを夏側に肩掛けしていた。弥生の心境の変化に気づきながらも、どうにかやり過ごそうとしていた夏を遠ざけるようだった。 「2人のことは好きだけど、2人といると自分のことが嫌いになる。3人でいたいって言ってくれて嬉しいんだけど…。嬉しいのにやっぱり私は月岡くんと2人でいたかった」。「海ちゃんのお母さんにはならない」とはっきりと答えを出した弥生に、夏は二の句が継げない様子で瞬きが少し早くなり、喉元だけが動いていた。夏は海にあげるはずのぬいぐるみを床へ置き、弥生の手を握ってティッシュを渡した。 夏と弥生が話し合いを経て、駅まで送っていくときには、夏はやや強引に腕を掴むようにして手を繋いだ。夏が「今日まではいい?」と確認しているのが寂しい。妙に手に力の入った様子からは、2人にのしかかったものの大きさを表しているようだった。 2人の手は握手をするような繋ぎ方から恋人つなぎへと変わり、それは経堂駅のホームにいても。事実上の別れを決めたものの、帰れずにいる2人の心を最後までつないでいた。終盤、涙するに至るまでの悲しみが溢れる様を、表情のわずかな動き、そして手の仕草からも後悔や寂しさを混ぜ合わせたような心境が伝わってきた。